【イベントリポート(前編)】バックオフィスほど楽しい仕事はない!企業の成長期に求められる管理部門リーダーの役割

Yosuke Noda |

去る2018年3月12日、株式会社コンカーの新オフィス(東京都中央区銀座)にて、ミートアップイベント『企業の成長期に求められる管理部門リーダーの役割とは?』を開催しました。

業績拡大と共に、組織も成長していく。そんな輝かしい成長企業は、人を育て、変化に対応する強靭な組織をつくり、社員が力を発揮する環境を整えている。その原動力となっているのはバックオフィス部門ではないか――。

そんな仮説を検証したいと、ビジネスニュースメディア「NewsPicks」とタイアップしたミートアップイベントを企画。会場には予定していた定員数を超え、100名近い参加者にお集りいただきました。

株式会社ほぼ日の篠田真貴子氏、株式会社メルカリ 長澤啓氏、株式会社コンカー 金澤千亜紀氏という各社の管理部門トップによるパネルディスカッションや、参加者からの質問にパネリストが答えるQ&Aセッション、そして懇親会と終始活発な議論が行われました。本記事では、その様子を一部抜粋してお届けします。

 

【パネリスト】

株式会社ほぼ日 CFO 篠田真貴子氏

慶応義塾大学経済学部卒業。1991年日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。96~99年ペンシルバニア大学ウォートン校で経営学修士(MBA)、米ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論の修士学位を取得。98年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、2002年ノバルティスファーマに転職。03年第1子出産。07年ネスレニュートリションに移籍、第2子出産。08年東京糸井重里事務所に入社、09年取締役最高財務責任者(CFO)に。

株式会社メルカリ 執行役員CFO 長澤啓氏

慶応義塾大学総合政策学部卒業、シカゴ大学経営学修士(MBA)。1999年三菱商事株式会社入社。M&A業務などに従事した後、ゴールドマン・サックス証券に移籍。東京およびサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月、メルカリに移籍し、執行役員CFOに就任。16年3月、スタートアップとして最大規模となる84億円の増資を実行。

株式会社コンカー 管理部部長 金澤千亜紀氏

専門商社勤務を経て、1997年、SAPジャパン株式会社に入社。セールスオペレーションに所属後、99年コントローリングに異動。主に営業部門のコントローラーとして予算管理やフォーキャストに関わる。2011年に退職後、家族の事情でボストンへ。13年6月、株式会社コンカーへ入社。事業規模が5年で150倍に拡大、従業員数が10名強から150名へと増えていく中、管理部部長として人事・財務をはじめとしたバックオフィス業務全般を牽引。

【モデレーター】

株式会社ニューズピックス ブランドデザインチーフプロデューサー 久川桃子氏

一橋大学商学部卒業後、外資系金融機関を経て、2002年に日経BP社に入社。「日系ビジネス」の記者として、主に医薬や運輸業界を担当。2度の育児休暇後、働く母親向け雑誌「ecomom」の編集長を務める。15年、株式会社ニューズピックスに移籍。「NewsPicks」のブランディングコンテンツの責任者として、企業のモバイルブランディング支援をリードする。双子を含む3児の母。

 

会社やフェーズによって、管理部門トップの役割はどんどん変わる

久川:まずは、「経営トップとの関係性、期待されている役割」についてうかがいます。管理部門のトップとして、経営トップとはどんな関係でしょうか。また、どんな役割を期待されていますか?

篠田:私は、ほぼ日に入社して今年の秋で10年になります。入社した時、社員は40名ほどで、経理担当者は2~3名でした。社長の糸井重里はフリーランスで20年くらいやってきた後にWebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げたのですが、当時、組織に所属したり運営した経験がありませんでした。だから、普通の会社なら当然あるような会社を回していくというノウハウが社内にありませんでした。

それでも糸井は、管理部門が必要だと分かっているから私を採用したわけです。どのようにしてニーズを満たせばいいのかを考えましたが、とにかく最初の3年くらいは糸井が言っていることが何もわからなかったですね。

あるミーティングで、糸井が急に不動産開発をしたいって言うんです。具体的な地名まで出しているんですよ。それでミーティングが終わった後に、社歴の長い仲間に聞いてみると、「あれは全部たとえ話です」と言われて。当時はたとえ話なのか本気なのかの分別すらつかなかったくらいでした。

糸井に「予算を作りましょう」と提案すると、「どうかな」と言われて、私が「どうかなって・・・」と内心つっこむようなところから始まりましたが、やっぱり私は経営者が抱いた夢をなるべく実現させることに、プライオリティがあると思います。だからどうしても折り合わないところはのんでもらうにせよ、夢を実現するために世の中とぶつかるところがあったら、今はちょっと痛いけど一緒にぶつかっておこうと腹をくくったり。そんな感じですね。

長澤:私はメルカリに2015年7月に入社しました。私の社員番号は94番ですが、今の社員数は700人近くになっていると思うので、ここ数年でかなり大きくなりました。コーポレート部門も20名くらいだったのが、今は80名を超えています。

最初は手づくり感満載で、自分も現場に出て実務作業も沢山こなしていました。CFOの役割って、会社やフェーズによって変わると思っていますが、入社当時の私には明確なミッションがあって、山田(代表取締役会長兼CEO)に言われたのが「とにかく成長資金を確保してください」でした。入社して2週間後ぐらいには、世界中にいる投資家に山田進太郎と一緒に会いにいって、ひたすらプレゼンして回っていたという感じです。

2016年3月に84億円を調達できたので、この1年半くらいは、そのお金を何にどう使っていくのかという仕組みを考えるほうに力を入れ始めています。メルカリは新しい試みを次々にスピード感をもって世の中に出していく会社なので、私自身は、その経営判断に役立つような情報を提供し続けるのが役割だと思っています。

金澤:私が入社した時は、まだ社員が20名くらいしかおらず、諸々の申請プロセスすら確立されていない状態でしたので、その一つ一つをロールアウトしていくことからでした。いま会社に何が必要なのかを社長と話し合いながら決めていきました。

申請のプロセスなどは、いままで自由にやってきた人たちが、急に私のような人間が入ってきたことで、ちょっと堅苦しく感じてしまうところがあったと思います。しかし、会社が大きくなっていく過程で必ず通るべきステップなので、説明して、理解してもらいながら、いかに負担にならないようにプロセスを浸透させていくのかというところに気を遣いました。

 

バックオフィスとは守りの仕事なのか?

久川:みなさんのお話をうかがうと、バックオフィスの仕事は動きのある激しい仕事というイメージを持ちました。しかし、日本ではバックオフィスというと、どうしても後ろ向きな仕事をしているというか、守りの仕事だと思われている感じがあります。

長澤:メルカリではバックオフィスという言葉は使わず、コーポレート部門と呼んでいます。未来をつくるコーポレート部門でありたい。自分たちが事業をドライブしている、イニシアチブを取っているという感覚も持ちたいし、攻めの部隊でありたいですね。

金澤:ジョブグレード制度をつくる際に、様々な人にヒアリングしながら進めていったんですけど、弊社に入社する人は終身雇用を求めて入ってくるよりも、働いている期間にいかに成長できるかを考えて入ってくる人が多いのではないかと。だとするならば、社員がいつ辞めたとしても、コンカーで働いたことで、自分がこんなに成長できたという実感を持ってもらえるような制度をつくりたいと考えました。

どんな人事制度をつくるかで会社の中が変わっていくと思うんですよね。私たちには「文化をつくる」という大きなミッションがあるんだなと実感しました。

篠田:管理部門が守りとか後ろ向きといった感じはまったくないですね。これは上場する前に言っていたことですが、ほぼ日においては「管理部門の第一顧客は同僚です」というのを、明確にしていました。クリエイティブな同僚の仕事が楽になって、浮いたエネルギーをより良い次のコンテンツに向けてほしい。そのために我々が引き取れるところは全部やるというのが基本姿勢だったんですよね。

加えて、管理部門の仕事をもう二つ上げると、一つは会社が進んでいくためにお金や人、場所などの経営資源を調達すること。経営資源を外から取ってきて、社内に適切に渡していく。動脈というか、水路をつくること。

それから二つ目として、会社と社会規範との整合性をとること。社会規範を社内に埋め込んでいくだけでなく、社会に対して自社のことを説明するのも管理部門の仕事です。こうしたミッションをつかさどっている管理部門が大好きです。めちゃくちゃおもしろい仕事だと思っています。

後編に続く - リソースが足りている会社は、すでに末期。一生足りないと思うべき

 

執筆・吉川ゆこ/撮影・柿野拓/企画編集・野田洋輔