経理・総務の豆知識
キャッシュフロー悪化の原因と改善させるためのポイントを解説 ~次世代経理を目指すシリーズ~
企業経営が立ち行かなくなる要因のひとつに、キャッシュフローの悪化があります。多くの売上があっても、手元にキャッシュがなく買掛金の支払いができなければ、経営が回らず黒字倒産してしまうリスクもあります。そこで重要になるのがキャッシュフローの改善です。
キャッシュフローを改善させるためには、キャッシュフローが悪化している原因の究明と迅速な対策の実行が必要です。今回は、キャッシュフローの概要を見たうえで、悪化原因と原因別の改善策についてお伝えします。経営者や経理担当者の方でキャッシュフローの悪化にお悩みの際は、ぜひ参考にしてください。
キャッシュフローの概要
キャッシュフローとは、一定期間での現金の流れを示すもので、現時点で企業にどれだけの現金があるのかを明確にするための指標です。
キャッシュフローの種類は、大きく「営業キャッシュフロー、財務キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー」の4つに分けられ、それぞれでの現金の流れを見ることで正確な把握が可能になります。健全な企業活動を継続していくためには、キャッシュフローを総額ではなく種類別にとらえ、それぞれ現金がどう流れていくか把握することが重要と言えるでしょう。
キャッシュフローの詳細について、詳しくは「キャッシュフローが企業経営に欠かせない理由とは? 概要から計算書の見方までを解説」をご覧ください。
キャッシュフローが悪化してしまう主な原因
キャッシュフロー悪化の原因は、自社に入る現金(キャッシュイン)の減少と、自社から出ていく現金(キャッシュアウト)の増加です。もしくは双方のタイミングが合わず現金が不足してしまう場合です。具体的には次のようなケースが考えられます。
売上の減少と、販売・商品管理コストの増加
自社が販売する商品やサービスの売上が落ちてしまうと、キャッシュインが減少し、キャッシュフローの悪化につながる場合があります。また、商品やサービスの売上が落ちていない場合でもキャッシュフローが悪化するケースがあります。例えば、仕入コストや販促コストの増加などでキャッシュアウトがキャッシュインを上回る場合です。
そのほか、倉庫代や品質維持など商品管理コストの増加もキャッシュアウトの原因となります。扱っている商材が飲食料品であれば、消費期限切れによる廃棄コストもキャッシュフローを悪化させる大きな原因のひとつです。
回収と支払いのタイミングのズレ
企業間の取引では、都度現金でのやりとりは行わないのが一般的です。月単位で取引をまとめて月末や次月に振り込む形で取引が行われるので、商品が売れてもすぐに現金は手元に入ってきません。そのため、商品の売上が入るまでの間に手元にある現金以上の支払いが発生すれば、キャッシュフローは悪化します。
例えば商品が予測以上に売れた場合でも、新たに大量に仕入れを行うことで、売掛金の回収(キャッシュイン)よりも買掛金の支払い(キャッシュアウト)が先に来てしまい支払えなくなるケースがあります。これが、売上が好調にもかかわらずキャッシュフローの悪化により倒産する、「黒字倒産」と呼ばれる現象です。
売掛金の貸し倒れ
また、自社に問題がなくてもキャッシュフローが悪化してしまう、売掛金の貸し倒れが考えられます。自社が商品を販売している取引先が経営悪化で倒産してしまえば、売掛金の回収ができなくなり予測していたキャッシュインが無くなってしまいます。場合によっては売掛金の貸し倒れによりキャッシュフローが悪化し、自社も連鎖倒産してしまう可能性があります。
過剰な設備投資
過剰な設備投資もキャッシュフローを悪化させる原因になります。もちろん、商品の売上向上により増産体制に入るための設備購入は、利益を生み出すためにも重要な投資です。しかし、現状のキャッシュフローを把握せずに設備投資してしまった場合、市場の変化や販売予測の甘さなどによって販売計画がうまくいかなければ、キャッシュフローは一気に悪化します。
増産体制に入った場合、設備購入費以外に仕入の増加、新たな倉庫の借り入れなど関連コストも重なるため、大きなリスクとなってしまうでしょう。またキャッシュ(現金)がなく借入金で必備投資を行った場合は、利息の付された返済金が発生します。さらなるキャッシュフローの悪化を招くリスクがあるため注意が必要です。
キャッシュフロー悪化の原因別、改善方法
キャッシュフローが悪化してしまう原因は、上述のようにさまざまです。ただし、どのような原因であってもまずやるべきは、一定期間における資金収支をまとめた資金繰り表を作成し、現状の現金の流れを把握することです。資金繰り表とは月の収入と支出を項目ごとに記載し、次月繰越金(月末残高)を管理するものです。
キャッシュフロー悪化原因の可視化により、やるべき改善策も見えてきます。ここでは、原因を把握したうえで、キャッシュフロー悪化の改善方法について見ていきましょう。
<資金繰り表~月の収入と支出を記載し、次月繰越金(月末残高)を管理する>
売上、回収、支払いなどの現金収支を記載することで、これまでどのように資金が流れていたのかの実績が把握でき、今後の資金が不足するタイミングの予測に役立てることが可能となります。また、不足原因を特定する助けにもなります。後述のようにキャッシュフローが悪化する原因は複数ありますので、原因を推測することで対策を立てやすくなるのも大きな効果です。
売上減少への対応
売上減少によってキャッシュフローが悪化している場合、仕入れコストや販売促進費を下げて粗利益を増やす方法が考えられます。商品によっては在庫を低価格で売り、利益を上げられる商品に資金を集中させる手法も効果的です。商品数を絞れば倉庫代や品質維持など管理コストも抑えられます。
入金日、支払日の交渉
回収と支払いのタイミングのズレによってキャッシュフローが悪化している場合、取引先と入金日を早める、もしくは支払日を遅らせるなどの交渉を行いましょう。売上の前払いをしてくれる取引先や、支払期限が2~3カ月先の取引先への変更を検討する方法もあります。また、現金で仕入れをするのではなく、クレジットカードを活用すると、支払いが翌月もしくは翌々月になるため、キャッシュフローの悪化を防げます。
与信審査の徹底
売掛金の貸し倒れを防ぐには、取引を行う前に与信審査を徹底することが重要です。商談を行う段階で情報収集を行い、取引をしても問題がないかどうかを調査します。また、与信審査は取引開始時だけではなく、定期的に行うべきです。取引先の経営状況がいつの間にか悪化していることに気付かず、想定外の貸し倒れが発生する事態を防ぎます。
未収売掛金の回収
貸し倒れになっていない場合でも、未収の売掛金があればできるだけ早い段階で回収するようにします。請求漏れがないか、支払い遅れがないかを定期的にチェックし、未収売掛金を減らすことが重要です。
また、どうしても早急にキャッシュが必要な場合は、売掛金の売却によってキャッシュインを実現させる「ファクタリング」という方法もあります。手数料が高額になる場合があり、常に利用するのはおすすめできませんが、いざというときには心強い方法です。事態が切羽詰まってからではなく、平素からそういった方法があることを理解し、必要なときは迅速に利用できるようにしておくとよいでしょう。
稼働していない固定資産の処分
キャッシュフローが悪化したときに稼働していない固定資産があれば、できるだけ早い段階での処分が望ましいです。今後、新製品の製造で活用するといった計画がなければ、設置しているだけでもメンテナンスコストがかかり、さらなるキャッシュフローの悪化につながります。
稼働していない固定資産が複数あれば合わせて処分し、キャッシュインを増やしましょう。購入時よりも安くなったとしても、設置しておくコストを考えれば長期的にはプラスです。未稼働の固定資産を処分すると、フリーキャッシュフローが増え、借入金の返済にも使えるようになり、キャッシュフロー健全化につながります。
なお、フリーキャッシュフローに関して、詳しくは「フリーキャッシュフローとは? 計算方法と管理のポイントを解説~次世代経理を目指すシリーズ~」をご覧ください。
常にキャッシュフローを意識することが改善のポイント
貸借対照表や損益計算書などだけで経営状況をチェックしていると、実際の現金の流れが読めず、支払い間近になって現金が不足してしまうかもしれません。キャッシュフローの悪化を招く原因はさまざまですが、自社のキャッシュインとアウトをしっかりと把握していないと、問題解決は難しくなるでしょう。
今回、キャッシュフローの悪化を改善する方法を紹介しましたが、まずは資金繰り表作成によるキャッシュフローの現況把握が改善の第一歩です。経理担当者はもちろん、経営者がキャッシュフローを意識することが、改善につながり、健全な経営を実現するでしょう。
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