遅刻した社員に対して減給は可能?答えはYES|減給制度の仕組みと注意点

Back Office Heroes編集部 |

「最近、遅刻が慢性化している気がする……」。そんなときに行う処分のひとつに「減給」という考え方があります。遅刻をしてきた社員に対して減給することは可能ですが、給与は社員にとって重要な労働条件。トラブルにならないように進めることが大切です。減給制度を取り入れる際に知っておきたい、減給の仕組みと注意点を紹介します。

 

遅刻が与える不利益を考える

遅刻は就業規則に反する行為です。違反行為に対して罰則を設けることは一般的な考え方ではありますが、運用の際には、そもそも遅刻という行為が会社にどのような不利益を与えたか、という視点を考えなければなりません。遅刻が会社に与える影響は、大きく分けて2つ考えられます。

業務への影響と心理的影響

まずは、業務への影響です。その業務を遂行するにあたって、必要な人数がそろわなければ業務は滞り、生産性は下がります。ミスの誘発にも繋がるでしょう。

続いて、社員への心理的影響です。たとえ業務にそれほど影響のない数分の遅刻であっても、定時前に出社している社員はいい気持ちはしません。軽めの遅刻を黙認してしまう傾向もあるようですが、慢性化すると、ほかの社員の士気を下げチームワークに悪影響を与えかねません。

あるいは「遅刻してもいいんだ」というマインドが蔓延し、職場全体に遅刻が横行する可能性もあります。

遅刻は出社時だけではない

また遅刻は、出社時にだけ起こるものではありません。社内ミーティングや顧客先での打ち合わせなど、守るべき時間は多様にあります。特に後者の場合は、対外的な信頼を損ね、取り返しのつかない事態を招くリスクもはらんでいます。

当然、これらに関しては、出退時間が個人に委ねられるフレックスタイム制や裁量労働制の社員であっても同様です。遅刻による制裁は、就業スタイルにかかわらず、どんな社員も該当することを念頭に置いておきましょう。

以上のことから、遅刻に罰則を設ける際はルールを逸脱したという事実だけではなく、遅刻が会社に与えるネガティブな影響を考えなければなりません。それらの発生を防ぐために行う処分だということを、いま一度、理解することが大切です。

 

そもそも「減給」とは?

それでは、減給について説明していきましょう。「減給」はしばしば「賃金カット」と混合されることがあるため、まずはそれぞれの正確な意味を説明します。


減給とは懲戒処分のひとつ

減給とは、労働者の勤怠不良に対する懲戒処分のひとつで、会社が給与から一定額を減額することを指します。減給を科す際は、基本的に労働基準法に従って行います。

賃金カットとは賃金を控除すること

ここで言う賃金カットとは、遅刻や欠勤などで労働者が働いていない時間に関しては、会社には賃金を支払う義務は生じないという「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、賃金を控除することです。

つまり、「遅刻した時間分の賃金を支払わない」という意味で措置をとる場合は「賃金カット」になり、「遅刻を勤怠不良とみなしペナルティを与えたい」という場合は「減給」となります。

ちなみに電車遅延や事故渋滞など、本人の責任によらない理由で遅刻した場合でも、賃金カットおよび減給することは基本的に可能です。

 

遅刻による減給は可能、ただし条件付き

前述の通り、遅刻した社員に対して減給することは可能です。ただし、給与は社員にとって重要な労働条件のため、会社の自由な裁量によって内容を決められるわけではありません。労働基準法により、一定のルールが定められています。

減給額には上限がある

減給額は、労働基準法第91条によって以下の通りに決められています。

  • 一回の額が、平均賃金の一日分の半額を超えてはならない
  • 総額が、一賃金支払期における賃金総額の十分の一1を超えてはならない

例えば、月給20万円で、1日の平均賃金が1万円という社員が遅刻したとします。この場合、1回の遅刻で減給できる上限は5,000円(1万円の半額)となり、1ヶ月の間に複数回に及んで遅刻をした場合の減給上限額、2万円(20万円の10分の1)となります。

また、1つの懲戒事案に対して繰り返し懲戒処分を行うことはできません。ペナルティだからといって、同じ事案に対して複数回の制裁を科すことはできないのです。

減給制度は就業規則に明記する

減給を行う場合は、あらかじめ就業規則に明記しておくことが前提です。
現在、制裁を科したい遅刻者がいたとしても、その時点で就業規則に減給制度がない場合は実施することはできません。また過去にさかのぼって制裁を行うこともNGです。

就業規則への記載方法は、「遅刻した際は、5分単位で切り上げて賃金から控除する」というように具体的に記載し、就業規則を変更した旨を改めて全社員に周知させる義務があります。のちにトラブルに発展するケースもあるので、しっかりと周知しておきましょう。

 

減給する時の注意点

減給は、その制度を就業規則に明記していれば実施できると説明しました。しかし、減給制度に該当しているからといっていきなり減給するのではなく、そこに相当性があるか、適正な手続きを踏んでいるかという点を考慮しなければなりません。

相当性

減給を科す際には、それが重すぎる処分になっていないか、過去の類似ケースと比べてどうなのか、という相当性を考える必要があります。

労働契約法第15条では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」とあります。このように、懲戒に対しては慎重な運用が求められていることがわかります。

適正な手続き

制裁に至るまでには段階があります。まずは口頭注意、あるいは始末書を提出させて、会社側も注意書を用いて書面通知し記録を残すこともポイントになります。また、本人に弁明の機会を与えることも忘れてはなりません。

いずれにせよ、専門家の意見を聞きながら適正な措置をとることが重要です。

 

減給が与える影響も考える

減給は懲戒処分のひとつであり、懲戒処分の主な目的は会社の秩序を保つことにあります。そのため、減給の是非を決めるときには、その対象者以外に与える影響も加味する必要があります。

例えば減給したことにより社内が殺伐とし、結果的に社員のパフォーマンスを下げてしまったり、評価の主な基準が時間であるかのようにとらえられ、クリエイティブな発想を阻害してしまったりなど、です。

秩序を保つための制裁が必要以上に社員を萎縮させることがないよう、減給が妥当なのか、妥当な場合はその告知の方法、告知後のマネージメントにも配慮が必要です。

また、遅刻の理由が寝坊などの職務怠慢なのか、そうでないのかでも対応は変わります。育児や介護などが理由の場合は、減給よりも就業スタイルを見直すほうが望ましいケースもあるでしょう。社員の能力を十分に発揮させるために、一人ひとりに見合った環境を整えていくこともバックオフィス部門の重要なミッションなのです。

 

まとめ

遅刻者に対して減給することは可能ですが、対象者以外に与える影響も考慮しつつ、運用の際には法令にしたがって慎重に進めることが大切です。遅刻が増えてきた場合は、改めて遅刻が制裁対象であることを周知させるだけでも効果があるのかもしれません。できれば減給制裁をせずとも、秩序ある健全な職場風土を築いていきたいものですね。