出張・経費管理トレンド
日本企業の不正のリアル。その傾向と対策とは?
~ 企業不正に関する 実態調査レポート(日本CFO協会調べ) は こちら から ~
あの有名企業に巨額の不正会計が発覚と聞いても、あまり驚かない時代になりました。それほど企業の不正・不祥事は巷にあふれています。
「不正と聞くと、莫大な額の横領といったイメージがあるかもしれませんが、会社役員といった職階にある人ではなく、ごく普通の社員が関与している場合も多々あります」と語るのは、株式会社エスプラスの代表取締役を務める辻さちえ氏です。
辻氏は、内部統制を進める企業のコンサルティングを担当する傍ら、不正会計をテーマにした企業向けのセミナーも多数開催しています。不正防止のプロとして、見聞きした企業の現状。そして、不正を防ぐために企業はどうすればいいのか。その対策をうかがいました。
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●不正は日常的に起きている
――企業で起きている不正のパターンを教えてください。
辻:大きくわけて3種類あります。業者から賄賂を受け取るといった「法令違反」。カラ出張で経費を計上して、自分のものにしてしまうといった会社資産の「不正流用」、つまり業務上の横領。そして粉飾決算、データ偽装などの報告書の改ざんといった「報告不正」です。不正や不祥事は相変わらず起きていますが、件数そのものが増えているというよりも、表に出てきている件数が増えていると感じています。
人材の流動機会が増えたり、SNSなどを使って内部告白しやすくなったことが、表に出るようになった理由です。それから、今までは不正が発覚すると企業イメージが悪くなるので隠そうとすることが多かったのですが、自ら発表することで、自浄作用があることを示すことにつながると考える企業が増えたことも理由に挙げられます。
――不正や不祥事が起きている企業の実情を教えてください。
辻:日本公認不正検査士協会が2年に1度発表している実態調査では、発生件数では業務上横領などの資産の流用が多いのですが、被害額や影響額という点で見れば報告不正が多いです。また、2017年11月に一般社団法人CFO協会で行った実態調査(※注1)を見ると、回答をいただいた方の4分の3が自分の職場で不正を見聞きしたことがあると回答しています。
ですが別の質問で、「見聞きした不正の金額規模」はと聞くと、1,000万円以上が6割強も占めています。この結果を見ると、1,000万円以下の少額では不正だと受け止められていないだけのような気もします。数百万円程度の額では、倒産するわけでもないので、不正として表に出にくいのでしょう。ただ、私が話をうかがった限りでは、大小の差はあるにしても、どんな企業でも不正は100%起きています。
――100%ですか!?
辻:はい。不正の手口としては「経費精算」「架空発注・割増発注」「架空売上」が多いですね。中でも交際費として計上できない内容の飲み会であっても、請求書をもらい、紙の請求書であることをいいことに数字を書き加えるといった経費精算上の不正は、額は大きくないにしても、日常的に起きているといえるでしょう。
●なぜ、不正は起き、増幅していくのか
――不正はとても身近なところで起きているんですね。
辻:そうです。例えば報道されたのでご存知かと思いますが、ソニーの子会社の幹部3名が、交際費や出張費など過剰な経費を使っていたことが内部監査で発覚したことにより辞任に至ったと発表されました(※注2)。
また、これは昨年の話ですが、三菱食品の子会社執行役員が、架空の請求書を偽造し、約10年で9億8,000万円相当をだまし取り、マンション購入や海外旅行費用に充てていました(※注3)。最終的に負債額は10億円を超えたと報道されましたが、この不正に関しては、取引先から調査が入ったようです。
――なぜ、不正は生じるのでしょうか。
辻:不正が生じる背景としてよく挙げられるのが、「不正のトライアングル」です。これは不正を起こす人の考え方をフレームワーク化したもので、「動機(プレッシャー)」「機会」「正当化」の3つで構成されています。
まずは「動機」です。業績をよく見せたいとか、金銭的に苦しいといった問題が生じます。そして、上司も経理担当者も支出内容はチェックしていないなど不正に気づかれずに実行できてしまうことが「機会」となり、不正に対する心理的ハードルが下がってしまいます。
この心理的ハードルが下がると、「会社が自分の能力を認めてくれないから」「サービス残業をしているんだから、この程度はちょろまかしても悪くない」と自分の不正を「正当化」していきます。こうして「不正のトライアングル」が成立し、不正が起きやすい状態になります。
●企業文化の成熟度と不正は反比例する
――不正が起きにくい会社に特徴はありますか。
辻:不正があった企業の社員に聞くと、「何かおかしいと思っていた」といったコメントが聞かれることが多く、実際に不正を知っていたという社員もいます。無関心であったり見てみないふりをしたり、何となく知っているのに言えない雰囲気が、不正を助長させます。
逆に良い会社はチェックすることに抵抗がありません。注意するのが面倒だとか、嫌われるといった考えを持つ人が少なく、良い見張り合いの習慣があります。そして、不正は不正として扱い、その社員がどんなに仕事ができようが、どんなに普段真面目に働いていようが、ちゃんと罰を与えます。
――企業文化も影響しているのですね。
辻:松下幸之助は、掃除をとても重視していたと聞きました。私がまだ会計士として監査法人に勤めていた頃、お手洗いやパントリーがきれいな企業は、仕事もクリーンだと感じていました。きちんと整理整頓がされている企業は見て見ぬふりをしません。一方、経費精算や不正支出を長年発見できない企業は、すべてにおいてルーズといえます。
また、自分が組織に大切にされていると感じている社員が多ければ多いほど、不正が起きにくいといわれます。時間のかかる対策かもしれませんが、人を大切にするという風土を育てていくことも、不正の防止につながります。
●社員を縛るのではなく、守るための内部統制
――不正を起こさせない仕組みづくり「内部統制」は、どのように進めていけばいいのでしょうか。
辻:内部統制には、予防統制(不正が起きないようにする仕組み)と、発見的統制(たとえ不正が行われたとしても早期に発見する仕組み)の2種類があり、この2種類をうまく組み合わせていきながら、整備していきます。
特に日常的かつ、社員全員が不正を起こす機会を得る「経費精算」は、予防統制が重要で、ルールに沿って運用できるようにIT化の推進は重要だと考えています。特に経費精算ツールの導入は効果的ですね。
経費精算ツールを使えば、請求書をスマホで撮影して送るだけ。手計算や手入力がないのでミスも少なく、経費精算の手間が省けます。また経費をデータ化することで、様々な分析を行い、不正という異常に気づくデータを形成することができます。不正を起こしやすい機会を減らしつつ、業務を見える化にもつなげられます。
――不正専門の担当者を置くことは効果的でしょうか。
辻:海外では、CRO(チーフ・リスク・オフィサー)がいて、社内のあらゆるリスクに対応していますが、日本企業ではあまり見かけません。CROの役割の中に、不正リスクへの対応が入るのかは判断の難しいところですが、一歩進んだ組織づくりとして力を入れる企業が増えていけばいいと思います。
内部統制とは、社員を縛るのではなく、犯罪者にしないためにあるものです。早期に発見できれば減給程度で終わることも、長く見つけられないと犯罪レベルになり、社員の将来はないものになってしまいます。仕組みづくりは、社員を守るためのものでもあります。
例えば日本取引所自主規制法人が、2018年3月に『上場会社における不祥事予防のプリンシプル』(※注4)を公表しています。こうした資料も参考にしながら、不正予防や早期発見のための内部統制を整備していただければと思います。
~ 企業不正に関する 実態調査結果レポート(日本CFO協会調べ) は こちら から ~
※注1「企業不正に対する対応の実態調査結果~アンケート調査と不正リスク対応におけるCFOの役割~」日本CFO協会(2017.12.15付)
※注2「ソニー、子会社で過剰な交際費 取締役ら辞任」日本経済新聞(2018.4.23付)
※注3「元役員が9億8000万円着服 三菱食品子会社、11年間で」(2017.4.22付)
※注4「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」
プロフィール : 辻 さちえ(Tsuji Sachie)
株式会社エスプラス 代表取締役、公認会計士、公認不正検査士
1996年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。様々な企業の会計監査を担当した後、コンサルティング部門に異動。会計監査での知見を軸に、内部統制報告制度やIFRS導入、コンプライアンス体制構築などを担当する。2015年株式会社エスプラス設立。内部統制、内部監査、コンプライアンスに関するコンサルティング業務や企業不正に関するセミナーを数多く実施。2016年6月ACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)理事に就任。2017年6月 株式会社シーボン社外監査役就任。
株式会社エスプラス http://2015splus.com/