経理・総務の豆知識
フリーキャッシュフローとは?計算方法と管理のポイントを解説~次世代経理を目指すシリーズ~
企業が自由に使用できる余剰資金を意味するフリーキャッシュフロー(FCF)。営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたもので、経営を安定させるために欠かせない資金です。近年、キャッシュフローの重要性が注目されるようになりましたが、なかでもフリーキャッシュフローは、事業拡大や借入金の返済にどれだけ予算が割けるかを決める重要な経営要素であるため、しっかりと把握しておかなくてはなりません。今回は、キャッシュフローのなかでも、特にフリーキャッシュフローについて、概要から計算方法など、見方のポイントをお伝えします。経理部門でキャッシュフロー管理を担当する方はぜひ、参考にしてください。
フリーキャッシュフローとは?
フリーキャッシュフローの「フリー」とは、企業が自由に使えるという意味の「フリー」で、設備投資以外にも借入金の返済や株主への分配に活用できるキャッシュ(現金)です。
企業が持つお金の流れを知るには、貸借対照表と損益計算書の把握が必須ですが、これらは帳簿上でのお金の流れしかわかりません。そのため、現在どのぐらいの現金があるのかを知るうえで把握しなければならないのがキャッシュフローです。
ただ、ひと口にキャッシュフローといっても、その種類はさまざまです。製品の販売や経費の支払いなど、営業活動による「営業キャッシュフロー」。金融機関からの融資や株式発行といった収入による「財務キャッシュフロー」。設備投資や固定資産の購入もしくは売却による「投資キャッシュフロー」。そして、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いた「フリーキャッシュフロー」の四つに分けられます。
どれも企業を経営していくには欠かせないものです。しかし、なかでもフリーキャッシュフローは、長期的に企業が安定して経営していけるかどうかを見るうえで重要な数字です。
例えば、フリーキャッシュフローが潤沢であれば、外部からの資金調達に頼ることなく、設備投資や株式投資が行えます。また、状況に応じて株主への分配や借入金の返済へと充てられるため、安定した経営を行えます。
そのためキャッシュフローは常に把握しておく必要があります。
※キャッシュフローについて詳しくは、「キャッシュフローが企業経営に欠かせない理由とは?概要から計算書の見方までを解説」をご覧ください。
フリーキャッシュフローの計算方法
フリーキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローから、投資活動によるキャッシュフローを差し引いた額です。
たとえば、ある月の製品売上で得た収益が100万円、仕入で支払った額が30万円、経費の支払いが20万円だった場合、営業活動のキャッシュフローは、
100万円-(30万円+20万円)=50万円
で、50万円となります。
そして、同じ月に製品を製造するための設備費として30万円を使った場合、投資活動によるキャッシュフローは、「-30万円」です。
この月のフリーキャッシュフローは、次の式で算出します。
50万円-30万円=20万円
よって、この月のフリーキャッシュフローは「20万円」です。
<フリーキャッシュフロー = 営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー>
フリーキャッシュフローを計算する際の注意点
フリーキャッシュフローの計算式自体は複雑なものではなく、簡単に算出できますが、いくつか注意しなければならない点があります。具体的には次のとおりです。
≫ 現時点で手元にある現金だけで算出する
キャッシュフローの基本は、手元にある現金の額である点です。そのため、例えば営業活動において、ある月に製品が100万円売れたとしても、売上の入金が1カ月先であれば、手元に現金はないため、売上はゼロになります。必ずその月に入金のあった売上、支払った仕入額、経費などで算出しなければなりません。
≫ 投資活動によるキャッシュフローがプラスの場合の計算式
投資活動によるキャッシュフローは、設備の購入や不動産の取得などでマイナスになるのが基本です。しかし、設備や不動産、有価証券などを売却して得た入金額が取得額を上回った月はプラスになります。
例えば、設備の購入で30万円使用し、不動産の売却で100万円の入金があった場合、投資活動によるキャッシュフローは「+70万円」です。同月の営業活動によるキャッシュフローが50万円だった場合は、50万円から70万円を引くのではなく50万円に70万円を足した金額、「120万円」がフリーキャッシュフローになります。
フリーキャッシュフローがプラスの場合とマイナスの場合の考え方
フリーキャッシュフローの額が多ければ、自由に使える現金が多いことを意味します。そのため、基本的にはフリーキャッシュフローは多ければ多いほど、企業にとってプラスです。
逆にフリーキャッシュフローが少ないもしくはマイナスになれば、設備投資や株主分配などが難しくなり、企業の経営に大きな影響をおよぼすでしょう。しかし、状況によっては必ずしも悪い影響ばかりではありません。
ここでは、フリーキャッシュフローが多い場合の主な使い道と考え方、マイナスの場合の考え方について解説します。
フリーキャッシュフローがプラスの場合
前述した例では、フリーキャッシュフローが20万円のプラスになっています。この場合、企業は20万円を自由に使うことが可能です。主な使い道として次のようなものが挙げられます。
≫ 新規事業や既存事業拡大のための投資
フリーキャッシュフローが多ければ、新たな事業の創出・既存事業の拡大への投資が可能です。フリーキャッシュフローを原資として、事業を大きくして利益を上げることを目指します。順調にフリーキャッシュフローが増えれば、また新たに新規事業の創出・投資をするという、良い循環を生みだすことが可能です。
≫ 株主への分配
フリーキャッシュフローが増えれば、株主への還元が出来て、これまで以上に関係性を強化させることも可能です。株主との関係性強化は安定した経営にも欠かせないため、効果的なフリーキャッシュフローの活用方法といえるでしょう。
≫ 借入金の返済
金融機関からの借入金返済にも、フリーキャッシュフローは活用できます。借入金が減れば、自己資本比率が高まるため、財務の健全性が向上し、安定した経営につながるでしょう。また借入金には利息が発生しますので、返済によって利息負担を軽減することが可能です。
フリーキャッシュフローがマイナスの場合
フリーキャッシュフローがマイナスになれば、自由に使える現金がなくなります。さらに、その状態が続けば金融機関から借り入れを増やす、資産の売却をするなどして資金の調達をしなければなりません。借入額が増えれば自己資本比率が下がり、安定した経営を続けるのも難しくなります。
ただし、製品の増産体制に入るために設備を大量に購入した場合や、新規事業のためにオフィスを増築して人材雇用を行った場合などはそれほど心配する必要はありません。マイナスになるのは一時的なもので、事業が上手く回り出せば、一気にプラスに転じる可能性があるからです。
フリーキャッシュフローを安定してプラスにするためのポイント
フリーキャッシュフローを安定してプラスにするポイントは、単年だけの数字で見るのではなく、3~5年のスパンで見ること。そして、プラスになっている理由、マイナスになっている理由をしっかりと把握することです。
フリーキャッシュフローがプラスであることは基本的に良いことですが、本業で収益が出ていない状態で手持ち資産を売却し、たまたま現金が多くなっているケースも考えられます。
また、事業拡大や新事業創出によって投資活動のキャッシュフローがマイナスになっている場合は、早い段階に売上で回収できる施策の検討が重要です。将来的に事業が軌道に乗るとしても、その過程でキャッシュが不足してしまっては経営が危うくなってしまいます。
フリーキャッシュフロー以外の数字にも着目することで、安定した経営につなげていきましょう。
フリーキャッシュフローは3~5年のスパンで見ていくことが重要
フリーキャッシュフローとは、企業が自由に使うことのできる現金です。これを事業拡大や新規事業の創出、借入金の返済、株主への分配などに使うことで、将来的に安定した経営が実現します。
そのため、フリーキャッシュフローは原則として多ければ多いほど安心です。ただし、資産の売却による一時的なプラスでは安定経営につながりません。また、事業拡大や新規事業創出のために多額の投資をすれば、一時的にマイナスに転じてしまう可能性も少なくありません。
経理部門でキャッシュフローの管理を行う担当者の方は、金額だけに一喜一憂するのではなく、プラス・マイナスの理由を把握したうえで、対策を考えることが重要です。将来を見据え、適切な分析を行うことが財務の健全性を向上させ、フリーキャッシュフローを増やすことにもつながるでしょう。 財務の健全性に関してより詳しい情報は「財務視点で考える 健全な財務プロセスの重要性」をご覧ください。