ハンコが消えた!半年弱で決裁書類の電子化100%を実現した茨城県の挑戦

Taku Kakino |

不動産登記、会社設立、婚姻届に年末調整。必要な行政手続きを行うために関係省庁、役所を巡り、必要な書類を集めて、書類の不備を指摘され、やり直し、、、誰もが一度は経験する体験。この煩雑な業務はなんとかならないものか、、、と思っていた頃に茨城県庁が電子決裁ほぼ100%を実現したという。少し眉唾感も感じながら、期待を胸に東京駅から特急とタクシーを乗継ぎ約1時間半、水戸市にある茨城県庁に到着。

茨城県政策企画部 ICT戦略チームの佐藤さんと戸澤さんに決裁書類の電子化を中心にお伺いしました。

 

低迷する電子決裁、変化の兆しは県知事のリーダシップ

 

柿野:県庁で発生する決裁業務の100%が電子化されたとお伺いしたのですが、どれくらいの期間で実現できたのでしょうか?

戸澤さん:平成30年4月時点での決裁書類の電子化率 13.3%が、同年9月に99.8%になりましたので、半年弱ですね。

柿野:半年弱!?システム化も含め、そんな短期間で実現できたんですか!?

佐藤さん:いえいえ、実は決裁書類の電子化に必要なシステム化は10年ほど前にすでに整備されていました。ただ、利用率は長らく低迷していました。

 


(茨城県政策企画部作成資料より)

 

そんな中、本年8月に就任した大井川知事から「例外は一切認めないかたちで電子決裁の徹底を図るように。」との指示があり、全庁一丸となって、決裁書類の電子化100%を目指す取り組みを始めました。

 

すベては県民のために、電子決裁の推進は私たち自身の働き方改革でもある

 

柿野:なるほど、トップのリーダーシップが大きな変革のドライバーになったということですね。逆に今まで利用率が低迷した理由もいくつかあると思うのですが、関係者のリテラシーなども原因だったのでしょうか?

 


(茨城県政策企画部 ICT戦略チーム 係長 佐藤 広明 さん)

 

佐藤さん:一概にリテラシーの問題ではなかったと思います。そもそもの根本的な原因は県民や企業の皆様からの申請や届出に関する書類が現状ではほぼ紙文書で作成されるため、後工程もそのまま紙でやった方が慣れていますし、ある種、効率的な部分があったのだと思います。

戸澤さん:申請いただいたものを庁内で確認し、精査し、承認を得て、実際に動けるようになるまで、関係者の承認が最低でも5つ、標準で10、複雑なものでは70人以上の承認が必要になることもあります。

柿野:70人以上?!そんなに承認のハンコが並んでいたということですか?

戸澤さん:はい。これらは関係者がそれぞれ、関連する法律や条例などに適合しているか、定められた基準を満たしているか、予算は適正に執行されているか、といった様々な尺度から妥当性を判断して承認を行っているもので、県民の皆様からの開示請求への説明責任の観点からも必要な手続きになります。

柿野:例えば道路工事のケースだと決裁に必要な紙文書はどれくらい存在するのでしょうか?

佐藤さん:工事の規模によりますが、一例をあげるとこれくらいです。

 


(実物ではありません)

 

柿野:そ、想像以上の厚さです。。。

戸澤さん:決裁書類の電子化を進めようとするとこれら紙文書で提出された書類をどこかのプロセスでデジタル化する必要があります。私たちは決裁に必要な情報のみを抽出して、電子化することで対応しています。各部門に提出された紙文書の情報をチェック、適法性を確認し、後工程の決裁に必要な情報だけをまとめ、電子化し、関係各部署の承認をワークフローで回していくというプロセスです。

 


(茨城県政策企画部作成資料より)

 

柿野:ちなみに決裁書類の電子化が完了する前はこの分厚い紙文書を持って、担当の方が関係各所の決裁を取りに歩き回っていたということですか?

佐藤さん:はい。その通りです。庁内外の関係機関や部署を歩き回って、もちろん不在のケースもありますし、紙なので検索性がある訳でもなく、相当の時間がかかっていました。しかも、県民のためにいい仕事をしたいという職員ほど、このような間接業務が増えていくため、とても健全な状態とは言えなかったと思います。

 


(茨城県政策企画部 ICT戦略チーム グループリーダー 戸澤 雅彦さん)

 

戸澤さん:昔は県庁というと安定していて就職先として良いというイメージがありましたが、近年では公務員でも優秀な人材を獲得するのが以前より難しくなっています。学生時代はスマホやネットでスピーディーだったものが、県庁に入ると紙だらけで間接業務に時間が奪われていく。決裁書類の電子化は私たち自身にとっての働き方改革であり、魅力的な職場作りの一つですし、何より県民の皆さまのためにもっと時間を使いたいという思いがあります。また、現在では全職員約5,000名のうち300名ほどが育児や介護をしながらでも、テレワークを組み合わせ庁外で仕事ができるようになっています。

柿野:決裁書類の電子化がほぼ100%になったことで業務スピードや効率性が格段に上がった?と思うのですが、実際はいかがですか?

佐藤さん:まず、大井川知事がIT業界出身ということもあり、庁内の業務スピードが全体的に上がっていると思います。個人的な体感値ですが、5倍くらい早くなったように感じます。以前は知事と直接コミュニケーションすることもなく、ピラミッド型の情報伝達手段で情報共有が行われていましたが、現在では直接現場レベルと知事との間でコミュニケーションもあり、アドバイスを求められたり、指示を受ける場面もあります。

戸澤さん:ほぼ100%電子化されてから1ヶ月ほどなので、定量的な効果を明確に説明できる状況ではありませんが、一年ほど経過すれば改善効果が見えてくるように思いますので、柿野さん、また一年後にお越しください(笑)

 

RPAの活用で2週間かかっていた間接業務が数時間に

 

柿野:ICT戦略チームの次のチャレンジはなんでしょうか?

佐藤さん:一つはペーパーレス。紙ゼロでできる業務領域を少しでも増やすこと。電子決裁の領域ではこれが直近の目標です。

戸澤さん:それから、AIやRPAを活用し、庁内で発生する間接業務の効率化にチャレンジしています。例えば、委員会での討議内容は開示義務があり、議事録を残す必要がありますが、これらをAIスピーカーで作成したり、入力、転記、突合などをRPAで省力化、自動化に取り組んでいます。

佐藤さん:RPAのケースでは、県内にある121校の公立高校への予算配当処理に今まで2週間かかっていましたが、数時間に短縮でき、具体的な効果が現れています。

 


(聞き手:コンカー 柿野 と 茨城県庁 佐藤さん、戸澤さん)

 

人口減少社会に対応できる社会基盤を、茨城県の挑戦は続く

 

柿野:最後に茨城県の今の課題とこれからのチャレンジを教えてください。

佐藤さん:東京都を除く、全国の道府県に言えることだと思いますが、人口減少が早いペースで進んでいます。この変化に対応できる社会基盤を一刻も早く作ることが重要です。攻めの領域では、質の高い魅力的な産業を県内に作り出すこと。IT産業や製造業を中心に茨城県に来ていただくために必要な施策、補助金制度などの拡充などを行なっています。安全安心という観点では茨城県は一人当たりの医師の数が47都道府県中46番目と極端に少なく、不安要素です。もちろん県内での雇用を増やすべく必要な施策を展開していますが、VRなどの先進IT技術を活用した遠隔医療も一つの可能性かもしれません。

戸澤さん:柿野さんも元茨城県民ですよね?魅力的な県にしてきますので、是非、今すぐにでも戻ってきていただければと思います!

柿野:帰る場所があるのは本当にありがたいです!是非、茨城県活性化のために私もどんどんご支援させていたきたいと思います。本日は貴重なお時間いただきありがとうございました。