経理・総務の豆知識
第10話 - 収益認識基準への改正で割賦販売の延払基準が廃止に - 公開道中「膝経理」
こんにちは、有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士の中田清穂です。
前回の連載のテーマは、「ポイント引当金の廃止」でした。各社が発行しているポイントカードやクーポン券などは、所有者である顧客に利用された段階で生じる将来の負債です。これら引当金をどのように処理すればいいのかについてお伝えしました。
さて、今回は「割賦販売の延払基準の廃止」についてです。新しい収益認識基準に改正されたことで変更された項目の中でも、特に各社に与える影響が大きな変更です。かつ上場していない企業にとても重要な項目なので、しっかりと理解しておいてください。
プロローグ
キンコンカン株式会社の幸田社長と、幸田社長の長年の友人であり社長仲間でもある山下社長は、キンコンカンの社長室で、田中経理部長から会計のいろはを聞いている。山下社長は話の内容についていけずに少々グロッキー気味だが、田中経理部長の話は止まらない。
工務店がリフォームを分割払いにしたときの会計が変わる
山下社長はちょっと浮かない顔をされていますが、もう少し話を続けてもよろしいでしょうか。
え! 田中さん、まだ話を続ける気なんですか? よくわからない話を聞きすぎちゃって、頭がパンクしそうなのに。まいったな。
山下社長の会社は工務店なので、割賦販売についてもお伝えしておいたほうがいいかなと思いまして。
か、かっぷ?
施主様のキッチンをリフォームした時の代金を、分割払いにすることはないかってことですよね。
さすが幸田社長! 最近の幸田社長は、会計や経理のことを意識する土台が備わってきたという感じですね。
田中さんに褒められると、ちょっと嬉しいな~。
ちょっと、ちょっと! そこで2人でイチャイチャしていないで、僕にもわかるように教えてくださいよ。確かに工事代金を分割払いにすることはしょっちゅうあるよ。リフォーム代金はけっこうするからね。けれど、うちの商売と新しい会計基準に何の関係があるっていうんですか?
大いにあります。割賦販売の「延払基準」が廃止されたからです。
のべばらいきじゅん? また難しい言葉がいっぱい…。
長期割賦販売における延払基準の廃止
これとても重要な話なんです。
どういうことですか?
「延払基準」は、製品を引渡したり、工事が終わった時に、全額を一度に売上計上するのではなく、分割して請求する時に、数回に分けて売上を計上する処理です。
だって請求もできないのに、全額売上を計上するなんてオカシイじゃん。
それが一度に全額売上計上しないといけなくなったのさ。
ええ~~っ!? でもうちは上場してないから関係ないでしょ!!
いえ、「延払基準の廃止」は会計基準の話から始まって、税法に影響を与えてしまいました。なので、上場していない会社でも、「延払基準」は廃止され、認められなくなったのです。
ええ~~っ!? それじゃどうすればいいの??
だから、工事が終わって引き渡した時に、一括で全額売上を計上しないといけないのさ。
請求もできないのに??
そう。
「分割払い」は、売上を計上するタイミングの話ではなくて、代金の回収の仕方の話だからです。
延払基準の廃止は、資金繰りに悪影響を及ぼす
これまでは、請求する毎に売上を上げていたけれど、今度からは、一気に計上できるから、まー、いっか!!
実は、さらに別なところに問題はあるのです。
むむむ、それはいったい何ですか?
売上は一度に全額計上する。そして請求は分割で行う。したがって、税金は売上計上した年に納付する。しかし、代金は後から入金される。
あっ!! 資金繰りがやばい!!
これは大変な問題じゃないですか? 悟のような非上場の中小企業の資金繰りを悪化させる税制改正なんて、ひどい話ですよね。
販売代金の残額≠売上金額
話はまだ終わりません……。
うう~、もう。や・め・て……。
ご安心ください。ここから先は、上場企業や大会社などの会計基準に従わなければならない会社の話です。
じゃあ、うちには関係あるんですね。
ええ。ただ、うちのビジネスでは、割賦販売をしていないので、関係ありません。
よかった。話を続けてください。
数年間に分割して代金を回収するということは、回収するまでに時間がかかるということですね。
そうですよぉ、それなのに税金は最初に払えなんて、ひどい。
税金の話ではなくて、金利の話です。
うちはお金を貸しているわけじゃないから、利息は取らないよ。
しかし、例えば1万円のものを売って、5年間で2000円ずつの分割払いにしたら、1万円がすべて売上金額と言えるでしょうか。
だって、1万円のものを売ったんでしょ。
一括払いでも、分割払いでも、売上金額は同じ1万円ですか?
1万円のものを売ったんだから、支払方法がどうあれ、売上金額は1万円じゃん。何か変ですか?
もし一括で支払ってもらったら、銀行で定期預金をして、利息が得られますよね。しかし、分割で支払われると利息は得られません。
そうか。回収が長期になると利息分だけ損するのと同じだ。
そうなんです。ということで、新しい会計基準では、回収が長期になる場合には、販売代金に含まれる「金利相当分」を、売上金額には含めないで、次の年度以降の「受取利息」として処理しなければならないのです。
超めんどくさいなぁ。でも上場してないうちには関係ない、でも資金繰りが、資金繰りがぁぁぁ。
そんなに落ち込むなよ、悟。一杯おごってやるから元気出せよ。
一郎から飲みに誘ってくれるの? 珍しい。行こう行こう!
単純なやつだ……。
中田の一言
今回の話は、会計基準が税制に影響を与えた典型的な話しです。そもそも今回の新しい会計基準の開発は、国際的な会計基準のレベルに合わせていくことで、上場企業の財務諸表を、国際的なレベルから取り残されないようにすることが目的でした。
それなのになぜ、非上場の企業にまで影響を与える税制改正が行われたのかは、よくわかりません。ある程度の推察はしていますが、ここでは触れません。
いずれにしても、今回のように、「会計基準は上場企業の話だから関係ない」と思い込んでいると、上場していない企業でも影響がありうるので、注意する必要があるでしょう。
公開道中「膝経理」(リンク集)
第1話「慣習に過ぎなかったこれまでの売上計上手続 」
第2話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(前編)」
第3話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(後編)」
第4話「日本の会計制度に影響を与えているIFRS(国際会計基準)とは?」
第5話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その1)」
第6話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その2)」
第7話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その3)」
第8話「見逃せない、収益認識基準が法人税・消費税に与える影響とは?」
第9話「収益認識基準の影響で、付与したポイントの引当金計上は大幅見直し」
第10話「収益認識基準への改正で割賦販売の延払基準が廃止に」
第11話「収益認識基準では返品の見積を考慮した売上計上が必要に」
第12話「収益認識基準で売上計上が禁止になる有償支給取引とは?」
第13話「収益認識基準の登場で工事進行基準は廃止」
第14話「収益認識基準では、本人か代理人かで売上が激減することもある」
第15話「収益認識基準では、延長保証サービスの会計処理も変わる」
第16話「収益認識基準で「重要性の判断」はどうする?」
監修者プロフィール
中田 清穂(Nakata Seiho)
公認会計士、有限会社ナレッジネットワーク代表取締役、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員
1985年青山監査法人入所。1992年PWCに転籍し、連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年独立し、有限会社ナレッジネットワークにて実務目線のコンサルティングを行う傍ら、IFRSやRPA導入などをテーマとしたセミナーを開催。『わかった気になるIFRS』(中央経済社)、『やさしく深掘りIFRSの概念フレームワーク』(中央経済社)など著書多数。
ちなみに、連載タイトルは「東海道中膝栗毛」からです。「膝経理って何?」という質問が多かったので、お知らせです。(編集部)
監修:中田清穂 / 執筆:吉川ゆこ / 撮影・企画編集:野田洋輔