SmartHR CFO 玉木 諒 氏 - 自分の専門性を理解し、自分なりのCFOを作っていく - The Road to CFO
CEOが事業を立ち上げ、経営が戦略をデザインし、CFOが必要な経営資源を調達し、実現に動いていく。経営を財務視点から支えるCFOはどんなマインドセットとスキルを持ち合わせれば良いか?
Back Office Heroes編集部では、企業におけるバックオフィス(コーポレート部門)のトップであることが多いCFOのキャリアに焦点を当てていきます。今回は、年末調整など面倒な人事労務業務を効率化するクラウド企業、SmartHRの玉木諒 CFO(最高財務責任者)にお話を伺いました。
SmartHRで時間を創出し、より価値のある仕事に
柿野:まず、貴社の事業内容を教えてください。
玉木:SmartHR(旧KUFU)は2013年に設立後、2015年より人事・労務のペーパーワークをクラウドで効率化するクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供しています。
例えば、毎年発生する年末調整の業務は、毎年、書類に記載する情報がほとんど変わらない割に、専門的な用語が多く、年末にしか行わない業務なので、記載内容を忘れがちです。SmartHR上で年末調整を行えば、入社手続きの際に従業員情報が入力されているので、それをもとに年末調整に必要な情報を確認していくようなフローです。
昨年の入力内容を引き継げますし、用紙に記入するのではなく「(SmartHR上に表示される)住所はあっていますか?」「扶養する家族はいますか?」といった簡単な質問に答えていくと必要な更新情報だけがアップデートされ、そのまま年末調整の用紙が生成されて、あとは提出ボタンをクリックするだけで処理が完了します。
労務担当も従業員からの書き方の問い合わせが減り、各人のステータス管理やリマインドも管理画面からできるため、煩雑な定型業務を減らしてより生産性の高い業務にシフトできます。事業を開始して3年になりますが、業種や企業規模問わず、一番大きいところだと従業員2万名規模の企業にもお使いいただいています。
柿野:なるほど、年末調整は繁忙期に期限付きでくるので、正直、億劫ですよね。私もSmartHRユーザですが、そのまま印刷して提出するだけ。私の間接業務も大幅に削減でき、本当に助かっています。
そんな成長著しいSmartHRさんですが、玉木さんはCFOになるまで、どのようなキャリアを経験しているのでしょうか?
就職にピンとこない、、、休学し、会計士を目指す、そして、、
玉木:就職活動で、OB訪問や会社訪問などをしたのですが、正直あまりピンとこなくて、大学の先生に相談したところ、「国立大学は休学中に授業料もかからないから、とりあえず一年休学して考えたら?」と柔軟な反応で、言われるがまま、まずは休学しました(笑)
ただ、時間が経ってくると、同期は大手企業に就職し、自分は休学。正直、焦りました......。でも、時間はあったので、資格の勉強をまずはしてみようと思い、文系だったのですが、数字が好きだったということもあり、公認会計士を目指すことにしました。
(株式会社SmartHR CFO(最高財務責任者)玉木 諒 さん)
柿野:資格取得後、最初の会社は確か、監査法人に入社されたんですよね?
玉木:はい。会計情報が正しいか?在庫の評価は適正か?コンプライアンスに抵触していないか?など、大手企業をクライアントにフィールドワークを3年ほど経験しました。その後、事業再生のコンサルティング会社に転職し、財務リストラなどの経験を1年ほど経験後、また、フリーランスになりました。
柿野:なかなか大胆な選択ですね。フリーランスの期間は今までの経験を元に仕事を受けていた感じですか?
玉木:はい。US GAAPへのコンバージョンだったり、投資案件のデューデリジェンスなど、今までやってきた業務の延長線上の仕事を個別にこなして、その後、VC(ベンチャーキャピタルに)に転身しました。VCでは財務担当で入社したのですが、小規模な事業体だったこともあり、投資チームのマネージャーも経験することができました。その後、縁あって、SmartHRのCFOとして現在従事しています。
柿野:CFOを引き受けるきっかけはどんなものだったのでしょうか?
事業を支援したいから、事業をしてみたいへ
玉木:心のどこかで事業を支援する立場から、事業を遂行する立場になりたいと思っていました。監査法人、事業再生、そして、VCと色々な事業を財務視点で支援してきましたが、SmartHRの事業はとても魅力的で、社会に必要な会社だと思いました。社長や経営チームのビジョンと姿勢にも強く惹かれチャレンジしてみることにしました。
柿野:SmartHRならではで、玉木さんが特に面白いと思うユニークな取り組みを少し教えていただけますか?
玉木:ベンチャー企業だと財務情報などの経営情報を社員に積極的に開示している会社が多いと思いますが、SmartHRでは社員が社長と会社を評価して、その結果も開示*しています。また、バックオフィスを含めた社内業務を多様なクラウドサービスを使いこなして効率化していこうという意欲が高く、SmarHRが目指す姿を体現しています。福利厚生も基本ボトムアップで、「タバコ吸わない手当」、「4Kディスプレイ支給」、「フリーアルコール(18:30〜)」など社員の生産性や全社的なコミュニケーションが最大化するような制度を柔軟に作り、変えていく社風**があり、ユニークだと思います。
柿野:CEOにとってのCFOはどんな人材であるべきだと思いますか?
玉木:CEOは会社のトップなので、常に線形的にも非線形的にも会社をどう成長させていくか?を考えるべきだと思います。ただ、自分の経験や知識だけですべてをカバーするのは不可能です。実現したいことを実現するための経営資源、特に財務的な視点はCFOに任せてもらえると分業と効率のバランスが取れるように思います。あと、キャッシュフローなどは特にCEO一人で背負いきるにはツライので、少なくてもCFOと一緒にドキドキすると精神衛生上良いと思います(笑)。
柿野:ストレスは一人で抱え込むより、多くで分け合ったほうがいいですもんね。ところでCFOにはどんなスキルが必要で、どんななキャリア形成をすべきだと思いますか?
CFOになりたいと思ったことは一度もなかった
玉木:特に若い人や学生さんから、「どうするとCFOになれますか?」と質問を受けるのですが、自分はCFOになりたいと思って仕事をした事がないんですね。その時に求められたことを自分なりに打ち返し続けたら、今のポジションになっていた、というのが正直なところです。確かに監査の実務経験はこれから上場を目指す上で必要なマイルストーン作りに生きていますし、事業再生では事業評価や資金調達に必要な銀行や金融機関の関係が今に生きています。そして、VCでは魅力的な案件の評価をする上で、ITビジネス周りのビジネスモデルやトレンドを理解する必要があったため、事業開発やマーケティングなどの現場のリアル感がわかります。
柿野:最近、財務経験がほとんどない方が、CFOとして必要な財務スタッフとチームを組んで財務戦略を成長に生かすという会社もありますが、いかがお考えですか?
自分のバックグラウンドを生かした自分なりのCFOを創り上げる
玉木:CFOは投資銀行、証券会社、監査法人、VC、事業会社、銀行、様々なバックグラウンドの方がいますし、色を出しやすい職種かと思います。自分の専門性や向き不向きを十分に理解し、ステイクホルダーとの良好な関係性が作り出せれば、自分なりのCFO像を作り出せると思います。
柿野:最後にこれからのSmartHRのチャレンジと玉木さんのチャレンジをお聞かせください。
玉木:会社としては現在、「社会の非合理を、ハックする。」というミッションを掲げSmartHRを提供していますが、人事労務領域をこえた「すべての時間を、価値ある仕事に」費やせるための製品に進化させるべく、新サービスの開発、そしてプラットフォーム化への展開にチャレンジしています。もちろんそれには必要な投資が必要ですので、数年内を目処に上場を果たすことは一つのマイルストーンだと思っています。また、個人的には上場準備は当然ですが、企業価値を中長期に安定させるために市場との対話を通じた優良な株主の確保など、今から準備すべきこともたくさんあるので、目線をあげて進めていきたいと思います。
(右:聞き手 - 株式会社コンカー 柿野 拓)
柿野:ありがとうございます。私も日本でCFOというポジションの啓蒙と根付かせる活動をしていきたいので、引き続きご支援ください。
玉木:こちらこそ、ありがとうございました。
参考資料* :2018-04-06 社員に社長を評価してもらった結果