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大学におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?求められる背景やメリット、具体的な施策例を紹介

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少子化による学生数の減少、財政状況の悪化、国際競争の激化など、大学を取り巻く環境は厳しさを増しています。そこで大学でも教育、研究、管理など、大学の経営業務全般にわたりDXを推進することで抜本的な変革を目指しています。本記事では、大学で取り組むDXの背景や課題、そしてそれがもたらす具体的なメリットと実践的な施策について詳しく解説します。

大学におけるDXとは

大学におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単なる技術導入ではなく、大学の機能と役割を刷新し、学生や社会のニーズに応える新たな価値を創造することを目指しています。デジタル技術とデータを活用して教育、研究、運営を根本から変革する取り組みです。これにより、現代の高等教育が直面する課題に対応し、未来の教育モデルの構築を図ります。

大学にDXが必要になった背景

大学においてDXが必要となった背景には複数の要因が絡み合っています。

日本の少子化による影響

文部科学省の調査によると、18歳人口は1992年をピークに減少し続けています。2017年には約120万人でしたが、2030年には約103万人、2040年には約88万人に減少すると予測されています。大学進学率は上昇しているものの、大学進学者数自体は減少する局面に入ると予測されています。

出典:2040年を見据えた高等教育の課題と方向性について|文部科学省高等教育局

これにより授業料収入が減少し、多くの大学で財政基盤が脆弱化しています。さらに、国からの運営費交付金の増額も見込めない状況が、大学の財政状況を一層厳しいものにしています。

また、グローバル化の進展に伴い、大学間の国際的な競争も活発化しています。海外の大学と比較されることが増え、優秀な学生や研究者の獲得においても国際的な視点が必要になっています。

社会ニーズや財政状況の変化

従来の大学運営方式では、変化する社会ニーズや財政状況に迅速に対応することが難しくなっています。例えば、紙ベースの事務処理や対面での会議が主流であるため、業務効率が低く、意思決定に時間がかかっています。また、固定的な予算配分や硬直的な人事制度により、新たな教育プログラムの開発や優秀な人材の確保が困難になっています。

そのため、ITシステムを活用した業務の効率化や、データに基づく迅速な意思決定、柔軟な資源配分が可能な経営体制の構築が求められています。

しかし、大学におけるDXの重要性は広く認識されているにもかかわらず、多くの大学で具体的な計画策定や実施が進んでいないのが現状です。その理由としては、厳しい経営状況によるDX投資の困難さ、専門人材の不足、従来の方法に慣れた組織文化、そして急速に進歩する技術への対応の複雑さが挙げられます。

さらに、制度面で教育関連の法規制がデジタル化に対応しきれていない部分や、データの管理や取り扱いについての議論が必要なことなど、DXの円滑な推進を妨げる要因となっています。

大学がDXを推進するメリット

DXを推進することで、大学は以下のようなメリットを得られます。

教育の質向上と学生満足度の向上

デジタル技術を活用することで、従来の一斉授業では難しかった個別最適化された教育の提供が可能になります。例えば、学習管理システム(LMS)を導入することで、学生一人ひとりの理解度や進捗状況を細かく把握し、それに応じた教材や課題を提供することができます。個別最適化された学びだけでなく、「協働的な学び」も重要です。文部科学省は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させることを推奨しています。

出典:学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料|文部科学省初等中等教育局教育課程課

このバランスを取ることで、より効果的な学習環境を構築できる可能性があります。このようにオンライン上での双方向的なコミュニケーションツールを活用することで、教員と学生、あるいは学生同士の対話が促進され、より深い学びが実現する可能性があります。文部科学省の「Scheem-D」プロジェクトなどが、教育現場にデジタル技術を普及させ、教育の質を向上させる取り組みを進めています。

研究力の強化

デジタル技術は研究活動に新たな可能性を提供します。その一例として、クラウドベースの研究データ管理システムの導入により、研究データの管理や共有の効率化が期待できます。具体的には、国立情報学研究所(NII)が運用する「NII Research Data Cloud」があります。このシステムは、データ管理基盤、データ公開基盤、データ検索基盤など、複数の機能を通じて研究データの管理・利活用を支援します。データの保存に加え、メタデータの付与、セキュリティ、データの来歴管理なども考慮されています。さらに、AI技術の活用により、データ分析、文献レビュー、実験計画の効率化も可能となります。

業務効率化によるコスト削減

大学の管理業務をデジタル化することで、業務の効率化とコスト削減が期待できます。例えば、学生の履修登録や成績管理、教職員の勤怠管理などをデジタルシステムで一元化することで、これまで人手に頼っていた作業の効率化につながるでしょう。デジタル化の効果を最大限に引き出すためには、単なる技術導入だけでなく、組織改革や業務プロセスの見直しなど、総合的なアプローチが必要です。

新たな収益源の創出

オンライン教育の普及により、時間や場所の制約を超えた教育プログラムの提供が実現しています。これにより、社会人学生や海外の学生など、従来のキャンパス型教育ではリーチが難しかった層へのアプローチが可能になっています。その代表例が、MOOCs(MassiveOpenOnlineCourses:大規模公開オンライン講座)です。MOOCsは世界中の学習者に高等教育を提供する効果的な手段となっています。他にも、デジタル教材の販売や企業向けのオンライン研修プログラムの提供があります。

データに基づく戦略的な大学運営

DXの推進により、大学内のさまざまなデータをデジタル化し、分析することが可能になります。例えば、学生の履修状況や成績、図書館の利用状況、研究費の使用状況など、多岐にわたるデータを統合的に分析することで、大学の現状をより客観的に把握し、エビデンスに基づいた戦略的な意思決定を行う基盤が整います。

大学のDX推進の注意点  

大学のDX推進にあたっては、以下に注意しましょう。

  • 初期投資と運用コストの考慮
    DX推進には多額の初期投資が必要です。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークインフラの整備など、基盤となる設備への投資が不可欠です。また、これらのシステムの維持管理や定期的な更新にも継続的なコストが発生します。例えば、クラウドサービスの利用料、ライセンス費用、セキュリティ対策費用などが挙げられます。大学は長期的な視点でこれらのコストを予算化し、費用対効果を慎重に検討する必要があります。
  • デジタルリテラシーの向上
    新しいシステムやツールの導入に伴い、教職員向けの研修や支援体制の整備が必要となります。また、学生間のデジタルスキル格差にも注意を払う必要があります。全ての学生が等しくDXの恩恵を受けられるよう、基礎的なデジタルスキルの教育やサポート体制の構築が重要です。
  • セキュリティとプライバシーの確保
    デジタル化に伴い、個人情報や研究データの保護がより重要になります。サイバー攻撃のリスクも高まるため、強固なセキュリティ対策の実施が不可欠です。具体的には、多要素認証の導入、暗号化技術の活用、定期的なセキュリティ監査などが挙げられます。また、教職員や学生に対するセキュリティ教育も重要な要素となります。

大学が取り組んでいるDXの具体的な施策や事例

大学が取り組むDXにはどのような施策があるか、分野別に紹介します。また、金沢工業大学工学部情報工学科教授の山本知仁先生へ大学・教育機関が進めるべきDXの取り組みについてインタビューでお伺いしました。ぜひDX施策の参考にしてください。
デジタルトランスフォーメーションで推進する教育機関の業務改革

教育のデジタル化

  • オンライン授業の導入と拡充
    オンライン授業を導入することで、学生と教員の移動時間やコストが大幅に短縮されています。例えば、遠方に住む学生が毎日通学する必要がなくなり、交通費や時間の節約につながっています。また、録画された講義を何度も視聴できるなど、柔軟な学習スタイルが実現しています。これにより、仕事や家事と両立しながら学ぶ社会人学生など、従来は通学が難しかった層の学習機会も増加しています。
  • デジタル教材の開発と提供
    デジタル教材を提供することで、学生の理解度に応じた個別化された学習が可能になっています。例えば、動画や対話型コンテンツを用いることで、学生は自分のペースで繰り返し学習することができます。また、AIを活用した適応型学習システムでは、学生の回答に応じて問題の難易度を調整するなど、個々の学習者に最適化された内容を提供しています。これらの取り組みにより、学習効果の向上が期待されています。
  • 学習管理システム(LMS)の導入
    LMS(Learning Management System)は、学習の管理や支援を行うためのオンラインプラットフォームです。授業の資料配布、課題の提出・採点、テストの実施、学習進捗の管理など、教育に関するさまざまな機能を提供します。LMSの導入により、学生の学習進行度や習熟度の可視化が容易になっています。教員はリアルタイムで学生の進捗状況を確認でき、必要に応じて個別指導を行うことが可能になりました。例えば、小テストの結果や課題の提出状況を分析することで、つまずきやすい箇所を特定し、効果的な指導を行うことができます。

研究のデジタル化

  • データサイエンスとAIを活用した研究の推進
    データサイエンスとAI技術の発展により、研究の質と効率の大幅な向上が期待されています。例えば、生命科学分野では、AIを用いたゲノム解析により、従来の方法では数年かかっていた遺伝子機能の解明が数週間で可能になるケースも報告されています。また、材料科学では、機械学習を用いて新材料の性質を予測し、実験回数を大幅に削減することで研究の効率化が図られています。
  • 自然言語処理技術の進歩
    自然言語処理技術の進歩により、膨大な量の学術論文から重要な知見を抽出し、研究者に提供するシステムも開発されています。これにより、研究者は最新の研究動向を迅速に把握し、新たな研究アイデアの創出に役立てられるでしょう。
  • 研究データのデジタル管理と共有システムの構築
    研究データのデジタル管理と共有システムの構築により、研究者間のデータ共有が促進され、共同研究の効率が向上しています。例えば、国立情報学研究所(NII)が提供する「NII Research Data Cloud」は、研究データの管理・公開・検索を一元的に行うプラットフォームとして注目されています。

キャンパス管理のデジタル化

  • VRを活用したキャンパスツアー
    VRを活用することで、遠隔地からのキャンパス体験が可能になり、入学希望者へのアプローチが大幅に改善されています。例えば、360度カメラで撮影したキャンパス内の映像をVR化し、スマートフォンやPCから閲覧できるサービスもあります。地理的・時間的制約を超えて、世界中の入学希望者がキャンパスの雰囲気を体感できるようになりました。
  • 学内システムのデジタル化
    学内システムのデジタル化により、業務運営の効率化が実現しています。例えば、多くの大学で導入されている統合業務システム(ERP)により、人事、財務、学務などの業務が一元管理され、事務処理時間の大幅な短縮が実現しています。
  • ペーパーレス化の推進
    ペーパーレス化の推進により、業務の効率化とコスト削減が実現されています。多くの大学で、会議資料や学内文書の電子化、電子決裁システムの導入などが進められています。
  • IoTを活用したキャンパス管理
    Internet of Things(IoT)技術を活用したキャンパス管理により、省エネルギー化やセキュリティ強化が進行しています。例えば、センサーネットワークを利用した空調・照明の自動制御システムの導入により、エネルギー消費量の削減が可能になります。

産学連携による人材育成

  • 大手企業協賛の学習施設の展開
    とある大学では、大手IT企業と連携して、DX人材育成、スタートアップ創成支援、新たな学びの創造を目的として施設が設置されました。企業の最新技術を活用したワークショップを定期的に開催したり、学生や教員による技術系スタートアップの立ち上げを支援したりといった活動をしています。
  • 地域企業との連携によるDXプロジェクトの推進
    多くの大学が地域企業と連携し、DXプロジェクトを推進することで、地域社会へのデジタル技術の普及を進めています。これらのプロジェクトは、学生に実践的な学びの場を提供すると同時に、地域の課題解決に向けたデジタルソリューションの提供を目指しています。
     

大学のDX推進に関しては、公的補助金もあります。文部科学省の大学改革推進等補助金というものがあります。この補助金は、大学、短期大学、高等専門学校における組織的な教育改革を推進するための事業に必要な経費を補助することを目的としています。対象要件など詳細は以下のページをご覧ください。
大学改革推進等補助金について|文部科学省 

大学はDXの推進で高等教育の改革に向けた取り組みを

大学のDXは、少子化による学生数の減少や財政状況の悪化、国際競争の激化という厳しい環境下で、日本の大学が生き残るために欠かせない取り組みです。デジタル技術を活用して教育、研究、管理業務を抜本的に改革することで、教育の質向上、学生満足度の向上、業務効率化などの多様なメリットを実現し、大学の持続可能な発展を目指せるでしょう。

実際にDXにはどのように取り組めばいいのか、実際に取り組まれた大学の事例などを集めたebookもございますので、ご覧ください。
ニューノーマルな大学経営を実現する事務組織のDXとは

さらに、DXによる大学の経営改革に向けた経費精算業務の効率化について産業界と学術界を交えた講演のレポートもご覧ください。
【イベントレポート】研究費管理と経費精算業務のデジタル化構想(前編)

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コンカーは、教職員の出張や研究活動に関連する経費管理などのソリューションを提供します。経費精算プロセスの簡素化、透明性の向上、コスト削減を実現。関心がある方はぜひお問い合わせください。
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