働き方改革は経営戦略――“働きがいのある会社1位”の会社が語る働きがいのある会社の作り方【イベントリポート(前編)】
株式会社コンカーがオフィス移転を機にスタートさせたミートアップイベントの第2回が5月16日に開催されました。今回のテーマは『働きがいのある会社の作り方』です。
法制度の改正が進む中、各企業が働き方改革を推進するためにさまざまな取り組みを実施しています。しかし社員が本当に働きがいを感じる企業、そして働き方改革を推進することで収益性を上げるような改革を成し得ている企業は、どの程度存在するのでしょうか。
そこでGreat Place to Workが毎年発表している「働きがいのある会社」ランキング(2018年度)で、従業員25~99人部門1位に選出されたアクロクエストテクノロジー株式会社の鈴木達夫氏、従業員1,000人以上部門で1位に選出されたシスコシステムズ合同会社の宮川愛氏、そして従業員100~999人部門で1位に選出された株式会社コンカーの金澤千亜紀を迎え、各社の取り組みを聞きました。
働きやすい社会づくりに貢献する一般社団法人at Will Workの代表理事を務める、藤本あゆみ氏をモデレーターに進むパネルディスカッションに続き、参加者からの質問にパネリストが答えるQ&Aセッション、そして懇親会と続いたミートアップイベントの模様を一部抜粋してお届けします。
【パネリスト】
アクロクエストテクノロジー株式会社 組織価値経営部 マネージャー 鈴木達夫氏
大学院情報専攻を卒業後、新卒でシステムエンジニアとしてアクロクエストテクノロジーに入社。3年後、様々なことに挑戦したい、と考えて、組織価値経営部に異動し、今では人事、総務、経理、広報、ミャンマー支社のサポート等、エンジニアリング以外のあらゆることに従事している。
シスコシステムズ合同会社 業務執行役員 人事部長 宮川愛氏
東京都出身。2003年に外資系IT企業に人事として入社後、日本国内人事のみならず、アジア太平洋地域の人事(主に人事企画業務・報酬制度・M&A等)に従事。2014年3月にシスコシステムズ合同会社入社後、部門担当人事(HR Business Partner)として営業組織の組織強化に携わる。2016年8月より現職。
株式会社コンカー 管理部部長 金澤千亜紀
専門商社勤務を経て、1997年、SAPジャパン株式会社に入社。セールスオペレーションに所属後、99年コントローリングに異動。主に営業部門のコントローラーとして予算管理やフォーキャストに関わる。2011年に退職後、家族の事情でボストンへ。13年6月、株式会社コンカーへ入社。事業拡大規模が5年で150倍に拡大、従業員数が10名強から150名へと増えていく中、管理部部長として人事・財務をはじめとしたバックオフィス業務全般を牽引。
【モデレーター】
一般社団法人at Will Work代表理事 藤本あゆみ氏
大学卒業後の2002年、キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、2016年5月一般社団法人at Will Workを設立。PR業務を極めたいと、2018年3月からはスタートアップを支援するPlug and Play Japan株式会社でマーケティング、PRも担当している。
それぞれの会社にとっての働き方改革とは?
藤本:2017年の流行語大賞に「働き方改革」がノミネートされ、そんなに流行していたんだっけという感じもあります。昨今、働き方改革という言葉をずいぶん見るようになりましたが、みなさんの会社では働き方改革をどのように捉えていらっしゃいますか。
宮川:私は2014年にシスコに転職し、人事の観点から働き方改革の推進に取り組んできましたが、シスコの働き方改革は2001年にスタートしています。当初はどちらかというと生産性・効率化を阻害するネガティブな要因を、いかに排除するかという点が目的でしたが、現在は会社の成長に不可欠なイノベーションを起こしやすい企業文化を育てるための目的に変化してきました。
では具体的にどういうことなのかと問われたら、私は『日本のサラリーマン文化の脱却』だと思います。サラリーマンって和製英語ですが、あえて英語に言い換えるならプロフェッショナルです。社員が単に給料をもらうために会社にぶら下がるのではなく、自分自身の自己実現のために、プロフェッショナルとして働けるようになることが、真の働き方改革であると考えています。
鈴木:アクロクエストは、社長と副社長が会社員だった時に、上司に良かれと思ったことを伝えたらクビになったという経緯で設立されています。社長と副社長が自分たちの苦い経験をもとに、社員がイキイキ働ける会社にしたいと思って設立した会社なので、どうすればよい会社になるのかを社員全員で常に話し合ってきました。
私は新卒で入社し、夏はエンジニア。リクルートシーズンの冬は採用担当という二足のわらじでやってきましたが、2001年に組織価値経営部が立ち上がってからはマネージャーとして、人事、経理、広報、組織コンサル、それからミャンマー支社の対応と、エンジニアリング以外のことをすべて担当しています。
組織価値経営部は、組織の価値を高めることを目的とした部署ですが、今も社員のために何をしたらいいのかを日々話し合っている会社なので、働き方改革だと言われて特別に改革することはないと思っています。
金澤:私は管理部に所属し、バックオフィス業務全般を担当しながら、社員同士の信頼関係を築くための取り組みに力を入れています。一般的に働き方改革とされるのは、時間や場所にとらわれない働き方だと思いますが、それを実現するためには、社員一人ひとりが自主性を持って働けるかどうか。「自律」が大事だと思っています。そうした意識を持つために、コミュニケーションがキーとなると考えています。
例えば全体会議では、社長が自ら長時間かけて、財務諸表などを公表しながら、企業の置かれている状況や未来について話します。そういった取り組みから、会社が今後どの方向に向かっていくのかを共有することで、社員一人ひとりがミッションを意識するようになる。そうなれば時間や場所にとらわれずに働ける、つまり働き方改革になると思います。
働き方改革が、会社と社員にもたらしたもの
藤本:働き方改革が推進されたことで、社内にどんな変化があったのでしょうか。具体的に教えてください。
鈴木:社員が働きやすい環境づくりにずっと取り組んできたので、改めて働き方改革と言われても…という感じですが、アクロクエストで特徴的なことを挙げるとしたら、給料を社員全員で話し合って決めていることでしょうか。
給料は、社長一人よりも社員全員のほうが正しく判断できるだろうという考えのもと、設立当時から継続していることです。結論が出ずに朝まで話し合ったことは何度もありますが(笑)、時間はかかっても納得性が高いので、一度決まれば後はみんながポジティブに働けます。
藤本:自分自身の評価と、他者からの評価にズレが生じることはよくあると思います。そのズレはどうやって埋めているのでしょうか。
鈴木:個人の成長は、結局会社の成長につながるので、誰かがやりたいと言っていることが、会社の成長に役立つものなのかという視点を持つことが大事です。査定は年に1回ですが、社員同士でしょっちゅう話し合いをしているので、あまりズレは感じません。若手はズレを感じることもありますが、ズレが生じると、数字も使って理論的に説明されるので、凹むものの納得できるんです。感情論になってしまうと話し合いはうまくいかないので、そこは理系が9割の会社として、論理的に話し合うことを実践しています。
金澤:私たちも個人の成長が会社の成長につながると考えています。ある時社員から、会社に対して意見しにくいという話を聞き、お互いに意見を言い合って、『高め合う文化』を醸成していきたいと考えました。
そこで導入したのがコンカー流のフィードバック制度です。一般的にフィードバックは、上司から部下への一方通行であることが多いですが、下から上、同僚、他部署からといったフィードバックもあっていい。ただフィードバックって、なかなか自分からは聞きにくいので、上司が部下に「私に対するフィードバックはない?」と自ら聞きにいく。そういったフィードバックを定着させるために、社員全員に研修を受けてもらっています。
宮川:シスコには、『People Deal』という考え方があります。これは社員と会社、双方向の契約みたいなものです。会社が社員に対して提供するものと、社員が会社に貢献すること。それが双方向となったときに初めてイノベーションを起こせるという考え方で、これはシスコの人事戦略だけに限らず、すべての根底にあるものです。『People Deal』という考え方を定着させるには、先ほど金澤さんのお話の中に「自律」といった言葉がありましたが、まさに自律が大事だと思います。
執筆:吉川ゆこ/撮影:野田洋輔ほか/企画編集:野田洋輔