出張・経費管理トレンド

社員の海外出張時の安全をどう確保するか 後編「業務渡航の危機管理 10のポイント」

Chie Tomita |

海外出張・業務渡航における危機管理の重要性が叫ばれる中、企業は危機管理にどう取り組めばよいのでしょうか。前編では企業の危機管理の実情とその必要性について紹介しましたが、今回はそれを踏まえた対策のポイントを紹介します。危機管理に万全を期すにはまず、「緊急事態が発生する」ことを前提にし、リスクに見舞われた際の被害を最小化できるように常日頃からの備えが必要になります。

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危機管理に取り組む際に必要なアプローチ

海外出張・業務渡航における危機管理の課題は、会社が出張者の行動を十分に把握していないために、緊急事態が発生した時にタイムリーな状況把握が難しいことにあります。現状では多くの企業が、海外出張で使う航空券やホテルを会社の契約外となるWeb上のサービスで予約することを認めています。この場合、出張申請書を提出して上長や管理部門の承認を得るというワークフローがあったとしても、出張者の安全を配慮した危機管理の面では十分とはいえません。

海外出張・業務渡航に出かける従業員の危機管理を徹底するにはまず、「旅程情報の一括管理」が必要です。会社が契約する旅行管理会社(TMC:Travel Management Company)やGDS(Global Distribution System)/CRS(Computer Reservations System)と連携した予約情報を取り込めるようにしておくだけでなく、出張者自身が外部で予約した旅程情報も取り込めなければなりません。

また、「リスク情報を入手する手段」も用意しておく必要があります。大惨事を伴う事件・事故であれば、緊急事態の発生を知らせる第一報を入手できますが、出張者がいる場所は安全なのかどうかという詳細については、リスクの情報提供会社から情報を受け取れるようにしておくことが最善策です。

実際に緊急事態が発生したときに備え、「出張者の所在把握」と「該当者への迅速な情報提供」のための手段も講じておかなければなりません。さらに会社側の「対応体制」、海外出張・業務渡航に先立って「事前の準備と教育」も必要です。


危機管理を実践するための10のポイント

危機管理は、具体的にどのように取り組めばよいのでしょうか。以下に緊急事態に備えた危機管理を実践するための10のポイントを紹介します。

① 危機管理チームを設置し、危機管理の手順書を作成する
緊急事態の発生時には、出張者だけでなく会社側もどのように対処すればよいのかわからずに混乱してしまいがちです。そうした混乱を招かないようにするためにも、海外出張・業務渡航に関する危機管理の手順書を作成しておきます。手順書は、豊富なノウハウを持つ危機管理会社と組んで作成すると効果的です。

② 24時間365日の出張者サービスをTMCと連携して準備する
緊急事態は、平日の業務時間内に発生するとは限りません。休日や深夜であっても、緊急事態の発生時に出張者を支援するためのサービスを用意しておく必要があります。この出張者サービスは、会社が契約するTMCや保険会社と連携して準備するとよいでしょう。

③ 途切れる時間がないように担当者リストを準備する
当然のことながら海外と日本では時差があり、日本時間の深夜にも緊急事態は発生します。その対応に当たるために、一人の危機管理担当者に責任を負わせることはできません。危機管理担当者と危機管理会社やTMCの連絡先をリスト化し、会社側でも24時間365日対応に当たることができる体制を準備しておきます。

④ 従業員自らの責任が自覚できるポリシーや考え方を明示する
緊急事態が発生したときに、必ずしも会社やTMCと連絡が取れない場合も想定されます。会社の指示を待ってから行動しては遅いこともあるので、従業員自らの責任で行動できるように、危機管理の手順書とともに会社のポリシーを策定して考え方を明示しておきます。

⑤ 通信手段を確保するため危機管理会社やTMCと提携する
緊急事態が発生すると、通常利用する携帯電話回線がつながらない可能性もあります。インターネット回線があればつながるIP電話やチャットを利用できるようにするなど、複数の通信手段を確保しておくとともに、危機管理会社やTMCと連携した連絡手段も用意します。

⑥ 落ち着いて対応できるように通信用テンプレートを準備する
緊急事態が目前で発生すると、管理者も出張者も落ち着いた行動が取れない場合も考えられます。緊急事態には何を伝えるべきか、対処方法をどのように要求するかといった必要事項を迅速に伝えられるように、通信用テンプレートをあらかじめ用意します。通話が困難な状況もあるので、メールテンプレートや専用ホームページを作っておくことも推奨します。

⑦ カントリーリスク情報に基づく渡航制限情報を得る
比較的安全な日本国内の出張とは違い、海外各国には政治や宗教などさまざまなカントリーリスクが存在します。これらの情報をいち早く得るために、外務省の「海外安全ホームページ」や各国大使館の情報を参考にします。最も効果的なのは、情報提供会社から直接安全情報を受け取れるサービスと契約しておくことです。

⑧ 出張者をトラッキングする仕組み、警告を発信する仕組みを整える
スマートフォンに内蔵されたGPS機能を利用して出張者の所在地を明らかにしたり、近隣で発生した緊急事態の警告を発信したりするための仕組みを整えておきます。情報を素早く得ることにより、緊急事態に巻き込まれるリスクを軽減できます。

⑨ グローバル医療の支援のためにプロバイダーを吟味する
海外各国は日本のような医療皆保険制度がなく、病気や怪我の治療には高額な医療費がかかります。こうした医療支援をグローバルで行うためには、医療サポートサービスを提供するTMC、保険会社などをよく吟味して選定する必要があります。

⑩ 出張者に安全と保安に関する教育を施す
海外出張・業務渡航する従業員に対し、緊急事態の発生時にはどのように対処すべきか安全と保安に関する教育を施します。自然災害やテロ・暴動、交通事故だけでなく、犯罪被害や日本とは異なる法令違反、宗教的タブーなども含め、あらゆる事態に巻き込まれないための回避策や対処方法を伝えるようにします。

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会社の危機管理レベルの把握や、今後の対策にお役立てください。

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