RPAは味方か敵か?経理財務部門に求められる今後の“変化”と“未来の数字”(前編)
経理財務業務の課題解決を目的としたコンサルティングに従事する中田清穂氏。最近はRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)導入に向けたセミナーを多数開催されています。
数々の事例を見てきたからこそ、「RPAに限らず、現場のIT活用を推進できる経理財務部門や担当者には特徴がある」と中田氏。変革を遂げられない原因を探ると共に、RPAとの向き合い方についてうかがいました。
中田 清穂(Nakata Seiho)
公認会計士、有限会社ナレッジネットワーク代表取締役、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員
1985年青山監査法人入所。1992年PWCに転籍し、連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年独立し、有限会社ナレッジネットワークにて実務目線のコンサルティングを行う傍ら、IFRSやRPA導入などをテーマとしたセミナーを開催。『わかった気になるIFRS』(中央経済社)、『やさしく深掘りIFRSの概念フレームワーク』(中央経済社)など著書多数。
日本のRPA推進は業務によって格差が拡大している
――まずは日本の現状からうかがいます。中田さんから見て、日本におけるRPAの導入は進んでいると言えますか?
中田:国全体というよりも、導入が進んでいる業務と進んでいない業務があると感じています。例えば、金融機関における顧客情報の管理業務などは、かなり進んでいます。
顧客情報など絶対に間違いが許されない情報を扱うとき、金融機関はこれまで人員を導入して三重四重のチェックを行うことで対応してきました。しかし、RPAを導入したことで人件費が削減され、その上ミスの軽減にもつながった。圧倒的に業務が改善されたわけです。その一方で、経理財務部門の業務ではあまり導入が進んでいません。
――経理財務部門での導入が進まない原因を教えてください。
中田:一言にRPAと言っても、まず前提として、海外と日本ではRPAの導入の仕方が違います。海外では業務プロセスを自動化するのに用いられるケースがほとんどです。業務の一連の流れをすべてロボに代替させるためにRPAを導入している。日本でプロセスの自動化に取り組んでいる企業では、どちらかというと作業単位で導入しているところが多いですね。
例えば、「基幹システムに蓄積された会計データの一部を選択し、ダウンロードさせる作業のみ」とか、そういった使い方です。
なぜ作業単位でRPAが導入されているのかというと、それは自分たちがいままでやってきた仕事のやり方を頑なに守り続けているからです。RPAで業務プロセスを標準化して自動化したら、今までの自分たちのやり方を変えなければいけない、あるいは自分たちが必要なくなってしまうかもしれない。これが、経理財務担当者にとって非常に大きなハードルになっています。だから作業単位での導入になりがちなのです。
――コスト的な面よりも、仕事のやり方を変えることがネックになると。
中田:RPAでプロセスを標準化させるには、相当な費用が必要です。しかし問題はそこではありません。やっぱり何かを変えることが怖いんですよ。新しい方法を導入して、それが会計処理上のミスを招き、決算を間違うことが怖い。その恐怖心は、深層心理の中に根深くあると思います。
なぜなら、経理、財務、会計という業務にはルールがある。ルールを守ることが何よりも大事で、ルールに従うことが仕事だと信じてきたわけですから、仕事上の何かを変えることへの心理的負担は、相当なものがあるのです。
RPAは手段。何を目的に置くかが重要
IFRS(国際会計基準)、ERP導入など、RPA以外のケースも振り返る中田氏
――逆にRPAの導入に踏み切れた経理財務部門には、どのような特徴があるでしょうか?
中田:自分たちの業務内容が変わっていくことに頓着しない人がリーダーだった場合は、スムーズに進んでいます。これはRPAだけに限った話ではなく、エビデンスの電子化など当部門の変革すべてに共通して言えることでしょう。
――中田さんが講師を務められるセミナーの参加者は、“変えられる人たち”ですか?
中田:意欲的な人ばかりとも限りません。それに私のセミナーに参加したことをきっかけに、RPAを導入したいと上司に相談したら、「導入に失敗したら、君が責任を取れるのか」と言われてしまったというのは、よくある話です。そうなると担当者レベルでは、何も言えないでしょう。
このような管理職クラスの人は、自分がセミナーに参加して、最新の情報を見聞きしているわけではないので、RPAの導入が成功するかどうかの見極めができない。自分が知らないから判断できません。
――CFOの耳に届く前に、管理職クラスで情報がストップして終わり、と。
中田:仮にCFOに届いたとしても、CFOは数字に関連することは経験豊富ですが、ITなど別のジャンルに詳しいのかといえば、そこはイコールにならないことが多い。RPAは業務改善という視点から入るので、経理財務部門の現場判断で導入を検討することが大半です。結果として、ITのことを知らない人たちが判断することになってしまい、導入がなかなか進みません。
――ということは、CFOがRPAに詳しくないと難しいですね。
中田:CFOや社長がRPAに詳しくある必要はないと思います。それよりも、RPAは仕事を効率化させるための手段ですから、その手段を用いて何をするのかをという目的を明確にイメージできる人であることのほうが大事です。
導入の目的は何か。コスト削減なのか、生産性の向上なのか、稼ぐ力を増やしたいのかを明確に考えられる。さらに、明確に考えてもらうためには、担当者がプレゼンテーションできないといけない。本質がどこにあるのかをちゃんと理解し、熱意を持って伝えられる担当者がいれば、RPAの導入はもっと進むはずです。
考え、自ら行動を起こせるなら、RPAもAIも怖くない
幼少期や父親の教えにも触れつつ(後編)、これからを担う人物像を語る中田氏
――RPA導入が遅れているものの、昨今、会計の仕事はAIに奪われるといった話が聞かれます。中田さんはどうお考えですか。
中田:人間は考えることを楽しいと感じられます。しかし、AIはビッグデータに基づいて考えるように人間に設定されたから考えているだけ。楽しいといった感情はありません。それに、AIの質を決定づけるのは高品質で大量のデータであり、その基準になるデータは過去の蓄積です。
――AIも人間の目的ありきですね。
中田:そうです。そして、人間には本能的なもの、勘、インスピレーションがある。そこから未来を想像することができる。そこが決定的に違うと思っています。
哲学者のカントは、人間と動物の違いを、考えて判断し、自ら動くことだと言っています。自ら考えて行動に起こすことが、これからの経理財務担当者には強く求められるでしょう。カントの定義に沿えば、つまりは人間らしさを発揮せよというところでしょうか。
毎日同じことを繰り返すのではなく、自分で考えて何かしら改善しようと努力できる人にとって、AIはまったく怖いものではありません。しかし、「経理って去年と同じことをやっているから楽でいいな」くらいに思って働いている人であれば、AIは脅威になります。ただ、私たちは皆、自ら考え、行動できる人間のはず。恐れる必要はないと私は思っています。
(後編に続く)
執筆・吉川ゆこ/撮影&企画編集・野田洋輔