なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか 第2回「ITが変えた旅行会社の業務」
今日多くの企業が、ビジネス目的の海外渡航、いわゆる海外出張を管理する「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」に注目しており、旅行会社各社もBTM事業に参入しています。前回の第1回では、BTM事業を展開する上で欠かせないITの仕組みを振り返りました。そうしたITの進化が旅行会社の業務をどのように変えてきたのかを、第2回となる本稿で解説します。
IT普及前の海外出張手配
1980年代に米国で始まったBTMですが、日本企業に導入されるようになったのも、旅行会社も本格的なBTM事業の展開を開始したのも、IT化が進んだつい最近のことです。とはいえ、ITが普及する前にも、企業と旅行会社の間には接点がありました。多くの企業はどこかの旅行会社の法人営業部と取引関係にあり、その旅行会社が企業に代わって渡航の手配を行っていました。
企業の業務渡航には、さまざまな目的があります。世界各地にある生産・販売拠点や取引先への海外出張・海外赴任をはじめ、国際会議への出席、研修・視察、さらには得意先との招待旅行、成績優秀者の報奨旅行、職場の慰安旅行など業務目的以外の渡航まで、旅行会社はありとあらゆる企業の需要(法人需要)に応えていました。
企業が旅行会社を利用するのには理由があります。例えば、海外出張の際には現地までの航空券やホテルを予約したり、旅程を作成したり、国によってはビザを申請・取得したりといったように、やるべきことがたくさんあります。航空券やホテルを予約するだけでも、どの航空会社のどの便、現地のどのホテルがよいのか、情報収集に大きな手間がかかります。国によっては、情報収集の手段すらないこともあります。そのために企業は、渡航に関する一切を旅行会社に任せたのです。
旅行会社の役目は、そうしたさまざまな法人需要に応え、渡航の手配や手続きを代行することです。社内に設置されているCRSの端末を使って航空券を予約し、膨大な紙資料の中からニーズに合致するホテルを探し、渡航者が現地で迷わないように旅程を作成するなど、あらゆる業務を行います。これは完全に人手に頼った、属人的な労働集約型サービス産業であり、旅行会社に求められたのは顧客企業にどれだけ満足してもらえるかという、いわゆる“ハイタッチサービス”を提供することでした。
ITの急速な普及により業務が一変
しかし、1990年代の後半になってインターネットが急速に普及し、旅行業界にもIT化の波が押し寄せると、従来の企業と旅行会社の関係は一変します。
企業は旅行会社に依頼しなくても渡航に必要なあらゆる最新情報をWeb経由で入手し、口コミや評判などを、SNSを通じて知ることができるようになりました。さらに、店舗を持たずにインターネット上だけで取引を行うOTA(Online Travel Agent)と呼ばれる旅行会社が出現し、渡航に最適な航空便やホテルを検索してオンライン上で予約から決済まで簡単に行えるようになりました。
例えば、世界最大級のOTA、米国のExpedia(エクスペディア)がマイクロソフトの旅行予約システム部門として設立されたのは、1996年のことです(1999年にマイクロソフトから独立)。同年には日本でも、旧・日立造船コンピュータ(現・NTTデータエンジニアリングシステムズ)が国内初のOTAサービスとして「ホテルの窓口」をオープンしています。ちなみにホテルの窓口は1999年に「旅の窓口」に改称、さらに2003年には楽天に買収され、現在は「楽天トラベル」としてサービスが提供されています。
一方、ITの進歩は航空会社、ホテルなどのサプライヤーと旅行会社との関係も変えました。ITが広く普及する前、顧客との接点を持たないサプライヤーは、旅行会社に集客を委ねる以外に方法がありませんでした。ところがインターネットの普及によって自ら情報提供できるようになったばかりか、オンラインによる直接予約・直接販売も可能になったのです。
特に航空会社のオンライン直販の割合が増加したことは、旅行会社のビジネスにも大きく影響しました。従来、旅行会社は航空会社から受け取る販売手数料が大きな収益源の1つになっていましたが、オンライン直販の増加によって多くの航空会社は旅行代理店への販売手数料不要のチャンネルを確保すると同時に、代理店への販売手数料も廃止へと進みだしました。そして“ゼロコミッション”時代が始まるとともに、航空会社だけでなく多くのサプライヤーが旅行会社への販売依存から脱却していきました。
旅行会社の真価が問われる時代に
しかしながら、旅行会社はこうした状況を、手をこまねいて見ているわけではありません。旅行会社もインターネット経由で、ワンストップで全ての予約を受け付けることが出来るOBT(Online Booking Tool)を提供するなど、インターネットに対応したIT化を着実に進めました。また、団体用に航空券を事前仕入してホテルの予約とセットにし、ツアーとして直販よりも格安な価格で販売するといった対抗策を講じるようになりました。
さらに旅行会社が取り組んだのが、これまで長年にわたって蓄積してきた経験と知見を基に、企業のニーズにも渡航者個人のニーズにも応える、付加価値サービスを提供することでした。とりわけ海外への業務渡航は、インターネット経由で情報収集が可能になったとは言え、企業は行程管理や危機管理の観点から、また渡航者個人は「冬のシカゴでの乗り継ぎには余裕をもっておく」「VIP同行の場合、随行者の受託手荷物もターンテーブルで直ぐに出てくるようにしておく」など、細やかなアドバイスや配慮が受けられるという点で、信頼できる旅行会社に任せたいものです。こうした企業ニーズの掘り起こし、法人需要の取り込みができることこそが旅行会社に問われる真価です。そしてこれがまさにBTMへとつながっていくわけです。
こうしたサプライヤーも交えた旅行会社の競争激化は、企業にとっても喜ばしいことです。これまでは、いわば“ブラックボックス”だった旅行会社のビジネストラベル業務が透明化され、出張者に最適なサービスを適正価格で受けられるようになったのですから。
しかし、そこから一歩進めて企業がBTMを運用するには、旅行会社だけに頼っていてはいけません。次回は、現在の企業の課題を踏まえながら、今日求められるBTMのあり方について、その先にある企業の働き方改革を見据えながら紹介します。
なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか(リンク集)
第1回「海外出張の変遷とITの仕組み」
第2回「ITが変えた旅行会社の業務」
第3回「企業の出張経費削減の秘訣とは」
第4回「BTMがもたらす働き方改革」
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