出張・経費管理トレンド

なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか 第3回「企業の出張経費削減の秘訣とは」

Chie Tomita |

前回の第2回では、ビジネストラベルマネジメント(BTM)に関して、旅行会社の企業向けビジネスの観点から紹介してきました。しかし、BTMは本来企業自身が率先して取り組むべき施策です。それにもかかわらず、現時点において企業の中にBTMが根付いているとは言えません。企業は今どのような課題を持ち、どのようにBTMに向き合えばよいのかを考えていきます。

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出張費用マネジメントの実態調査における課題と対応策

BTMが目指すのは経費の削減

ITの進展により、旅行会社のビジネスは大きく変わりました。法人需要を支えてきた渡航手配を中心とする従来の業務は変化を遂げ、現在は渡航手配から危機管理まで業務渡航に関するすべてを管理する「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」に基づいたサービスが提供されるようになっています。

BTMは米国で1980年代に生まれ、日本でも外資系企業を中心に1990年代から徐々に導入されてきました。しかしながら、多くの日本企業はBTMに取り組めていません。そもそもBTMという用語も意味も、一般的に使われるところまで浸透していません。まずは「BTMとは何か?」「BTMは企業のどんな課題を解決するのか?」を改めて考えてみましょう。

BTMとは、海外出張や海外赴任、国際会議への出席、研修・視察などのビジネス目的で海外へ業務渡航する際に必要となる、あらゆるプロセスを総合的に管理することです。このプロセスには航空券やホテルの手配、パスポートやビザの取得、旅程の作成、旅行保険への加入、危険情報の提供など、渡航に関するものなら何でも含まれます。

その最大の目的は、渡航に関する経費を削減することにあります。言い換えると「理想の購買を調達で実現すること」がBTMの狙いです。さらに関連業務を効率化するとともに、会社としてのガバナンス強化、危機管理を徹底することも大きな目的になります。

管理が甘くなりがちな海外出張経費

さて、皆さんの会社では、業務渡航の手配をどのように行っているでしょうか。総務部などの間接部門(あるいはその先の旅行会社)に丸投げしている企業もあるでしょうし、すべてを渡航者個人に任せている企業もあるでしょう。しかしこれでは、経費削減・コスト最適化を実現するには程遠い状態と言えます。

企業の間接部門や旅行会社に丸投げすると、航空運賃やホテルの宿泊費が適正なのか比較検討の余地がないまま、見積書だけが独り歩きします。古くから懇意にしている旅行会社に依頼すると、今までの傾向を重視し、出張者の満足を得るために嗜好に配慮した手配が阿吽の呼吸で行われ、今の相場より高い金額だったとしても気付かないかもしれません。また個人任せにしてしまうと、各個人が好みのサービスを、時間をかけて選ぶ傾向にあり、それがコストアップと時間の無駄につながる可能性があります。例えば、同じ会社の従業員で同じ渡航先に向かうのにもかかわらず、安く抑えようとアジア系航空会社を使う人もいれば、個人の好みで高価でも日系航空会社を選ぶ人もいるのです。

多くの企業は、自社の本業にかかわる直接経費について非常にシビアに計算します。ところが、渡航経費のような間接経費については、ルーズであることが少なくありません。業務渡航の経費などは、その最たる例と言えるのです。

旅費ガイドラインが出張経費削減のカギ

こうした企業の課題を解決するものが、BTMです。では、BTMを実践するにあたり、企業はどんな取り組みをすべきなのでしょうか。

業務渡航に関しては、どの企業でも就業規則の中に「旅費規程」として定義されています。ここには通常、出張の区分や日当、交通費、宿泊費、保険の取り扱いなどが規定されており、変更する場合には労動基準監督署へ届け出なければなりません。しかしBTMを実践する場合、殆どはこの就業規則の旅費規程を特に見直す必要はありません。最初に行うのは、旅費購買における基本方針をガイドラインとしてまとめる作業になります。

この旅費ガイドラインは、旅費規程を補い、属人的な拡大解釈を防ぐ等の合意形成のために、会社としての購買方針や判断基準を規定するものです。例えば、航空会社の選択においては会社のポリシーが優先される、アップグレードやマイルの蓄積を目的とした高額な運賃の選択は不可等、航空会社・経路・チケットの種類の選択基準、マイレージやポイントの取り扱い、座席のアップグレードに関する考え方など示します。

さらに、実際に航空券やホテルを予約・購入する際は、この旅費ガイドラインに基づいて設定した購買ポリシーに則ります。当年度はどの航空会社を利用するか、どのチケットの種類を利用するか、いつ購入するかといったより具体的な“決まりごと”を定めておくという訳です。ただし、購買ポリシーは航空事情や企業の渡航先の変化などに左右されるため、継続的にPDCAサイクルを回し、最適化を図る運用が求められます。旅費ガイドラインや購買ポリシーを作成する際に重要なのが、「航空運賃」と「購入(予約)時期」による航空券購入の推奨指針を決定することです。航空便をよく利用する方はご存じだと思いますが、航空会社は早期に購入すると安価になるという割引運賃を多く用意しています。便の変更不可、キャンセル不可といった利用条件の厳しさに比例し安価になります。こうした割引運賃「=コスト」を考慮しつつ、乗継回数や所要時間「=快適性」とのバランスポイントをLLF(Logical Lowest Fare=論理的最安値)として定め、それを最適調達とします。企業は契約している旅行会社に予めLLFを伝える、もしくは旅行会社にサポートしてもらってLLFを定めることで、理屈の上では渡航者個人が好みだけで高額な航空券を勝手に予約・購入することを防止し、経費の削減が図れる筈です。しかしながら、その旅費ガイドラインや購買ポリシーを全社員が理解し、遵守できるようにすることは、大変な時間と労力を要することです。LLFと企業が許容する旅程や金額を、時間をかけずに具体的に把握することは更に困難ですし、従来のように出張者がメールや電話で手配オペレーターに依頼するという、人対人のやり取りでは忖度も働きます。その最も厄介な問題、積年の悩みをいとも簡単に解決してくれる有効なツールが、法人の環境で航空券やホテルなどのオンライン調達ができるOBT(Online Booking Tool)なのです。このOBTに企業の推奨指針を設定しておけば、出張者は自社のOBTで出張手配を行うだけで、自然と旅費ガイドラインや購買ポリシーを遵守することができます。勿論OBTに企業の推奨指針に従った選択肢が提示されるように設定を施すにあたっては、会社ごとのチューニングが欠かせません。そのためには、OBTを運用する旅行会社が必要であり、その旅行会社には業務渡航をはじめとするBTM等トラベル全般に関しての知見はもちろん、ITの知識も必要になってきます。

購買ポリシー策定に有効なTMCの活用

航空券やホテルの調達は渡航者個人の利得や嗜好にからむため、旅費ガイドラインや購買ポリシーを策定すると現場からの反発や抵抗を招くおそれもあります。そうしたリスクを想定し、旅費ガイドラインや購買ポリシーを設定する際には、緩和策を織り込むこともあります。例えば、欧州や北米南米といった長距離路線の利用者には、プレミアムエコノミークラスの利用を許可する等、コスト削減できた費用の一部を身体的負担の大きい旅程の出張者に還元、座席のアップグレードを可能にするといった方針を示すわけです。

こうした指針は企業自身の判断によって決定することですが、渡航者から一定の理解を得た上で不満を最小化させつつ経費削減を実現するというバランスを上手くとるには、やはりBTM事業の豊富な経験とITリテラシーを兼ね備えた、 TMC(Travel Management Company)と呼ばれる旅行会社のアドバイスが有効です。TMCが提供するコンサルティングサービスを活用しながら旅費ガイドラインや購買ポリシーを確実に設定することが、BTMを成功に導くカギを握っているのです。

BTMを入口として間接費改革に着手し、コスト削減を成功させれば、浮いた分の経費や時間を他の業務に振り分けるなど、企業の生産性向上に寄与することになります。そして、そこから多様な働き方を可能にする働き方改革につながっていくのです。

なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか(リンク集)

第1回「海外出張の変遷とITの仕組み」
第2回「ITが変えた旅行会社の業務」
第3回「企業の出張経費削減の秘訣とは」
第4回「BTMがもたらす働き方改革」

BTMについて詳しく知りたい、BTMの実現方法について質問したい、という方は、お気軽にこちらまでご連絡ください

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