働きかた改革
AIで変えるバックオフィスの未来 - 第3回ミートアップレポート(2)
2018年9月11日、ザ・プリンスパークタワー東京で開催された「SAP Concur Fusion Exchange 2018 Tokyo」 展示会場内の特設ステージにて、3回目となるBack Office Heroesミートアップを開催しました。
当日行われた2つのセッションから、「AIで変えるバックオフィスの未来」のレポートをお届けします。
昨今話題のAIがコーポレート部門の仕事にどう関わってくるのか? 身近な経理業務の中でAIがどのように活躍し、何がどう変わっていくのか? まだ、具体的にイメージできていない方々に向けて、AI事業に携わる有識者の二人にうかがいました。
【パネリスト】
SAPジャパン株式会社 Leonardo事業推進部長
小野田 久視 氏
株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ ソリューション統括部 / Digital Transformationチーム マネージャー
寺島 富幸 氏
【進行】
Back Office Heroes 編集長
野田 洋輔
なぜ、これほどAIが注目されているのか?
野田:IDC Japanが5月に発表した、国内のAIシステム市場の成長予測によると、2017年から2022年の年間平均成長率は60.7%で成長し続け、5年後の2022年には約3,000億円の市場になると予測されています。なぜ、こんなにAIに関心が集まっているのでしょうか?
小野田:インターネットの普及が急速に進み、ソーシャルメディアやオンラインサービスの使用が日常的になってきました。皆がソーシャルメディアや写真ストレージのサービスを毎日のように使用することで、学習対象となるデータがどんどん蓄積されています。データが蓄積されると、そのデータをどう活用していくのかという点が、AIに注目が集まる一番大きな理由なのかなと思います。
SAPのグローバル調査によると、人間が行う作業の大体60%くらいは、2025年までには自動化が完了するであろうと予測されています。これは“仕事”ではなく、あくまでも“作業”の部分です。声や動画の認識率は2020年までには99%になると予測されています。人間の認識率は概ね98%といわれていますので、機械の精度の方が高くなるというわけです。さらに、画像の識別率は97%です。市場規模ですと、3.5兆ドルという非常に大きなお金が世界中で動いているという現状になっています。
これからのバックオフィスを考えるという観点からも、このようなデータを基に事実をどのように活用していくかが重要になっていると考えます。
国内IT大手のNTTデータグループで進めるAI活用の取り組みとは?
(NTTデータ グローバルソリューションズ 寺島氏)
野田: NTTデータグローバルソリューションズでは、どのような取り組みをされているのでしょうか?
寺島:私たちNTTデータグローバルソリューションズは、NTTデータのSAP事業を専任で行うグループ会社です。NTTデータという会社は皆さんもご存知だと思いますが、AIを非常に古くから研究しており、専任スタッフ、技術者、研究員もいて、AIの研究開発組織であるラボもあります。私たちは、急速な勢いで進化を続けるAIをいかにビジネスに活用するか、どんなビジネスを実現できるかというところに取り組んでいます。
ラボでは、AIでパラメータを掛け合わせた結果を見るだけでなく、そもそもインプットにどんなパラメータが必要なのかというところまで洞察して研究しています。また、組織には複数のチームがあり、異なるチームが作ったAI同士を戦わせて、さらに新しい気づきやソリューションの創出に繋げています。
我々は、IT部門の方とだけではなく、経理などの業務部門の方々と一緒にソリューションを作っていきたいと考えています。これは、NTTデータグループとしての取り組みです。
AIが向いている分野は? 今、AIの利用はどこまで進んでいるのか?
野田:お話をうかがっていると、収集・蓄積したデータをAIで活用することにとって、今まではアイデアがあって不可能だったことが実現できるようになってくるようですね。今後、AIが様々な分野に活用されていきそうだというのは、ご来場された皆様もなんとなく感じていると思います。そこで、実際に、AIはどんな分野に向いていて、今どれくらい進んでいるのかをうかがっていきたいと思います。
先程のIDCのマーケット調査結果によると、今後、AIの活用が特に進展する領域として、二つ挙げられていました。一つ目は「金融領域でのリスク検知と分析」、二つ目が「サービス業での自動顧客サービス」です。実際にビジネスとして取り組まれているお二人から、より具体的なお話をうかがいたいのですが、まずは小野田さんから教えていただけますか?
小野田:まず、SAPはERPの会社だと思っている方が多いと思いますが、最近では、ERPだけでなく、イノベーションを起こしていきたいお客様をお手伝いする仕事をたくさんさせていただいています。その中の一つで、AIを使ってカスタマーサービスを向上させているスワロフスキー社(SWAROVSKIS)の事例があります。
小野田:スワロフスキー社は、およそ100万点の種類の商品を展開しています。これまでは、商品を購入したお客様が、壊れた商品の修理依頼で店舗にお持ち込みされたとき、正直、壊れてしまっているのでどの商品なのかすぐに分からず、店頭で店員さんがカタログを見ながら一生懸命調べて探すというのが現状でした。
それを、AIの画像認識技術を活用することによって、お客様にもストレスなく、店舗スタッフにも間違いが起きないように速やかにカスタマーサービスが提供できるようになります。
お客様から送られてきた壊れた商品の撮影画像をアップロードして商品カタログ画像と照合すると、およそ1~2秒程度でマッチ率100%の商品から順に表示されます。画面上で該当の商品を選択してチェックアウトすれば、すぐに発注まで完了します。
野田:膨大な数の商品の種類があって、一般人から見たら、どれも同じように見える商品が沢山あるわけですよね。
(SAPジャパン 小野田氏)
小野田:そうですね。我々のような男性の目線だと、どれも同じスワロフスキーなのだからほとんど同じだろうと思う部分はあります。でも、実際に購入される女性の目線でいくと、商品によって「これが可愛い」という好みは当然違います。
100万点の商品を1万パターンの角度で撮影しておくことで、どんな形で壊れていても照合できるようになります。データを蓄積し続け、AIを活用することで、こうしたことが簡単に実現するようになるのです。結果はシンプルなものですが、そのバックエンドには膨大なデータと機械学習の結果が存在します。
野田:ありがとうございます。寺島さん、御社グループでの取り組みでご紹介できることはありますか?
寺島:NTTデータグループの取り組みとしては、第一世代の「ルールベース」、第二世代の「統計/探索モデル(マシンラーニング)」、第三世代の「統計/探索モデル(ディープラーニング)」の三つを組み合わせて、「知識発見」から「予測」、「知識処理(実行)の自動化・自律化」に到るまで広範囲なAI活用の実績を有しています。
寺島:代表的な例としては、「渋滞緩和」と「Smart ICU」が挙げられます。「渋滞緩和」は中国のグループ会社と共同で、大規模な交通量データを分析し、渋滞予測・信号制御シミュレーションを行っています。「Smart ICU」は、バイタルデータから重症患者の状態悪化を予兆検知してアラートが鳴る仕組みを作っています。他にも、「ロボットとセンサによる高齢者見守り支援」、「天気予報の予測」、「ニュース原稿の自動生成」などがあります。今まで人件費をかけて行っていた作業を自動化していく取り組みです。
野田:すごいですね。どの分野も発展して欲しいものです。僕も記事を作るので、例えば「ニュース原稿の自動生成」で、今日のパネルディスカッションの終了後に原稿ができあがっていたら嬉しいですね。
バックオフィスをAIでどのように進化させていくのか?
野田:会場には、経理や総務などバックオフィス業務を担う方々が多くいらっしゃっていますので、今後、バックオフィスにAIはどう活用されていくのか教えていただけますでしょうか。
寺島:今日はバックオフィスの方々に向けて、経理のAIの活用イメージ動画を用意してきました。経理の「過去」、「現在」、「未来」を表していますのでご覧ください。
寺島:正直に申し上げると、この動画は経理の知識のない3人で考えました。本来、経理の方々は、経理の仕事に期待をもって入社され、活躍したいと思っているにも関わらず、膨大な事務作業で遅くまで仕事をしていらっしゃると想像しています。レシートや請求書を見てデータ入力作業や突き合わせをする、承認待ちで家に帰れないということが、日常的にあるのではないかと。
動画の中に「未来」という絵がありますが、AIを活用することで、本来退社すべき時間に余裕を持って退社できるようになります。そして、それぞれのキャリアでありたい姿を目指してもらえたらと思います。経理業務を自動化することで、プレミアムフライデーは15時に退社し、友人と会って食事をしたり飲みに行ったりする。そうした未来をお客様と共に作っていけるよう準備を進めています。
野田:コンカーによって、手書きのシートやエクセルに入力するような、非常に面倒なプロセスが必要なくなりました。モバイルを活かしたシステム上でのワークフロー、スマートフォンによる領収書電子化を実現したことで、昔に比べると今時点でもずいぶん楽になったと思います。さらに、AI活用をコンカーも進めており、経費精算の全自動化を促進しています。
『SAP Concur Fusion Exchange 2018 Tokyo』には、スポンサーの企業様もたくさんいらっしゃっています。コンカーはオープンプラットフォームという考え方をとっていますので、コンカーと繋がる形でイノベーションが起こり、バックオフィスの皆様の仕事がさらに楽になっていくことを、期待しています。
ITベンダー各社のAIブランドの違いは? SAP Leonardo の特長は?
野田:SAPのLeonardo(レオナルド)、IBMのWatson(ワトソン)、SalesforceのEinstein(アインシュタイン)など、大手ITベンダーからAIブランドが出ていますが、一体何が違うのでしょうか?
小野田: Leonardoの名称は、レオナルド・ダ・ヴィンチに由来します。「万能の天才」ということで、AIだけでなく、ビッグデータ、IoT、ブロックチェーンなど様々な領域で価値を提供していきたいというブランディングです。
我々のLeonardoはチェスはやったことがなく、碁もおそらく弱いですし、将棋は全く分かりません(笑)。でも、我々は会計業務にはとても強いです。というのも、SAPは40年に渡って30万社のお客様の経理業務、会計業務、財務業務のソリューションを提供してきました。そのデータの一つひとつ、すべてを我々が所持しているわけではありませんが、40年かけて勉強してきた内容をコンピューターに教え込むことで、これまで人間が行っていた省力化できる作業を、どんどんAIに置き換えていくことが、SAPがAIを使って企業の皆様に提供できる価値なのではないかと思っています。
IBMはERPのメーカーではないので、Watsonには少し違う領域での強みがあると思います。Salesforceは、SFA、CRM、マーケティングオートメーションの領域で強みがあると思いますし、それぞれのAIブランドの強みが異なると思います。GoogleやAmazonなどを含め、これからは、各社の強みを相互に活かし合って繋がっていくAPIエコノミーが広がっていくと思います。
実は我々も、音声認識の部分はGoogleさんと共業しています。例えば、「OK、Google、昨日の売上を教えて」と聞くと、インターフェースはGoogleホームに向けて、そこから我々のERPへと展開していく形で導入されているお客様もいらっしゃいます。柔軟に組み合わさることで、より良い便利な社会になっていくといいなと思います。
バックオフィスの働き方はどう変わっていく?
野田:最後に、今後、バックオフィスの働き方はどう変わっていくのでしょうか?
小野田:AI技術の発展により、サービス残業がなくなっていく。これが一番大きな変化だと思います。そこから段々と通常の残業代の支払われる残業がなくなっていき、無駄なものからどんどん削ぎ落されていくという形になるのが望ましいと思っています。
寺島:AI技術が浸透した結果、経理部門の方々には、受け身ではなく攻めの経理をしていただきたいなと思っております。不適切な経費清算をよく行う人をばんばん見つけてください。そして、会社のキャッシュフローを改善していくことを示してあげてください。ぜひお願いします。
Q&Aセッション
―動画にあったNTTデータ グローバルソリューションズの「経費×AI」について、実際に企業へ導入されるのはいつ頃の予定でしょうか?
寺島:まずは1つ年内を目指して、コンカーと連携するAI機能を用意しようとしています。例えばレシートにビールがあった場合、会社の規定で経費精算できない不適切なものとして除外するなど、色々な機能を考えています。
―中国やロシアのAI事情はどのような状況でしょうか?
小野田:中国のAIはとても進んでいます。顔認識技術でいうと、精度の高さは、中国の会社かGoogleかどちらかというほどです。中国のAI技術は素晴らしい成果だと思っています。それが脅威になるかというと、使い方次第だと思いますので、ぜひ経済活動の良い方向に活用していただきたいと期待しています。
関連情報
(執筆:出澤由美子 / 企画編集:野田洋輔)