経理・総務の豆知識
自治体 DX はなぜ必要なのか?事例を交えて具体的な施策を紹介
DX が求められているのは、民間企業だけではありません。自治体でも DX の推進が求められており、 総務省による自治体の DX 推進計画も策定されています。日本では業界を問わず、人手不足が進んでおり、業務を大きく効率化していかなければならないのは自治体でも同様です。 ただし、自治体の DX には民間企業とは異なる事情があります。例えば、国の標準仕様に準拠したシステムを利用しなければならない、デジタルデバイド対策が必須などです。そのため、民間企業の DX とは異なるポイントに気をつけなければなりません。 ここでは、自治体 DX の概要と、総務省のビジョンや具体的な施策などについて、事例を交えて紹介します。
自治体のデジタル化・DXに関する調査はこちらのレポートもご確認ください。
自治体内部事務業務デジタル化に関する調査と考察
自治体 DX とは
自治体 DX とは、自治体(市町村や都道府県)がデジタル技術を活用し、行政サービスの改善や効率化を図ることです。 DX(Digital Transformation)とは、単なる業務のデジタル化や効率化ではなく、デジタル技術によって業務や組織を変革し、より良い商品やサービスを顧客に提供していくことを指します。
そこで、自治体の DX では次の 2 点が重要なポイントとなります。
- 自治体の業務をデジタル化して効率化し、地域住民の利便性向上を図り、より良い行政サービスを 地域住民に提供すること
- デジタル化によって業務を可視化し、透明性を明示して、自治体や職員が何をやっているかが住民に見えるようにすること
自治体 DX の目的
自治体 DX の目的は、デジタル技術を利用して、地域住民に利便性の高い行政サービスを提供することです。
2023 年発行の「自治体 DX 全体手順書【第 2.1 版】」では、次のように示されています。
「DX においては、単に新たな技術を導入するのではなく、デジタル技術やデータも活用して、個別の業務プロセスのうちの一部のデジタル化に止まることなく、利用者目線で、業務の効率化・改善等を行うとともに、行政サービスに係る住民の利便性の向上につなげていくことが求められる」
自治体 DX が必要な理由
自治体には、規模を問わず、さまざまな課題があります。それを解決するため、自治体 DX の促進が求められているのです。 自治体の課題は、主に多様化する住民のニーズへの対応と、職員の業務効率化や働き方の改善の 2 つに分けられます。
多様化する住民ニーズへの対応
- 行政手続きのオンライン化による公共サービスの利便性の向上
多忙な現代社会では、自治体の営業時間に合わせることが難しい場合も多いです。行政手続きをオンライン化して利便性を向上させ、民間企業のサービスと同様に、効率的な公共サービスの提供が求められています。
- 情報公開の迅速化
現在の自治体の業務は紙の書類で行われているため、住民からの情報公開請求があっても迅速に対応することが困難です。業務をデジタル化し、迅速な情報公開が求められています。
- 多言語対応
近年は旅行者・住民ともに外国人が増えており、自治体のサービスにも多言語化が求められています。
- 災害時の迅速で正確な情報収集・伝達
災害時には、できるだけ迅速に状況を把握し、住民に正確な情報を伝達する必要があります。デジタル技術を利用し、迅速で正確な情報収集・伝達を行えるよう体制を整えることが急務です。
- 誰でも利用しやすいサービス
高齢者や障害者など、外出が難しい住民もいます。そのような場合でも自宅から自治体のサービスを受けられ、必要な情報を入手できるようなサービスの提供が求められます。
自治体の業務効率化や職員の働き方の改善
- 長時間労働の是正
従来の紙の書類を基本にした業務の中には多くの非効率な業務があり、長時間労働の一因とされていま す。IT ツールやデジタル技術の導入による業務へ移行し、DX を通じた効率化を進める必要があります。
- デジタル化への対応
テレワーク推進や「脱ハンコ」など、デジタル技術を利用しやすい環境が整ってきました。またマイナンバーカードの利用促進により、行政サービスのデジタル化も避けられなくなっています。自治体は迅 速な対応が求められます。
- 人材不足の解消
少子高齢化によって、自治体でも人手不足が進むなかで、公共サービスの質を落とすことはできませ ん。IT ツールやデジタル技術で対応できる業務を DX 化し、人間が対応するべき業務を絞り込み、限ら れた人材でサービスを運用する必要があります。
- 新たなサービスの創出
職員の経験や勘、もしくは過去の事例に基づくものではなく、人口動態や経済指標、人流データ、アン ケートなどのデータに基づく政策を行う必要があります。データから隠れたニーズを発見し、新しいサ ービスを提供することも可能です。
- 「2025 年の崖」問題
利用しているシステムや端末の複雑化。ブラックボックス化が進みレガシーシステムとなると、セキュ リティリスクも高まり、保守運用にも大きな費用がかかります。レガシーシステムを使い続けることで、2025 年以降に大きな経済損益が発生するいわれており、これがいわゆる「2025 年の崖」です。こ の問題に対応するため、新しいシステムや端末への入れ替えが求められています。
自治体 DX のビジョンと目標
全国の自治体で同じように自治体 DX を進めていくため、ビジョンと目標が定められています。
総務省のビジョン
2020 年に政府が決定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、次のビジョンが示さ
れています。
「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現
できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」
引用元:自治体 DX の推進|総務省
また、このビジョンは2022 年に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも重ねて示されています。このビジョンを実現するため、総務省は「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定しています。
自治体 DX の目標
自治体 DX の目標や進め方については、総務省の「自治体 DX 推進計画」からにより、重点取組事項を抜粋します。
- 自治体フロントヤード(住民との接点)改革の推進
フロントヤード業務をデジタル化し、一カ所でひととおりの用事を済ませることができる「ワンストップサービス」への改革を行います。具体的にはマイナンバーカードでマイナポータルから利用できる行 政手続を増やします。例えば、生活に必要な申請や登録作業をシステム化・オンライン化することで、 住民の利便性を向上させることが可能です。
- 自治体の情報システムの標準化・共通化
自治体の主要業務については国の標準仕様に準拠したシステムへ移行することが予定されています。それによって、全国共通でオンライン手続が可能になり、住民の待ち時間も職員の負担も軽減することが 可能です。
- マイナンバーカードの普及促進・利用の推進
デジタル社会の基盤として、マイナンバーカードを本人認証に利用します。そのほか、健康保険や運転免許証など、さまざまな行政サービスに利用していく予定です。
- 自治体の AI や RPA の利用推進
業務システムを導入するだけでなく、AI や RPA も導入して、自動化できる業務を増やします。それによって職員の業務を軽減し、大きく業務改善や業務効率化を進めることが可能です。
- テレワークの推進
災害時への備えや、交通費の削減、地理的な制約の緩和なども目的としてテレワークを推進することが必要です。 バックオフィス業務のテレワークについては、次の記事も参考にしてください。
- セキュリティ対策の徹底
行政のオンライン化が進むにつれ、個人情報のやりとりが増え、さまざまなデータが蓄積されていきます。情報漏えいや不正アクセスが起こることを防ぐため、セキュリティ対策は強化しなければなりません。
上記の目標を達成するためにはデジタル活用支援も重要です。というのも、行政サービスのデジタル化 やオンライン化が進むことで、デジタル化についていけない住民が発生するリスクがあるためです。行政サービスのデジタル化について趣旨を明確にして理解と協力を得たうえで、サポートを行う必要があります。
自治体 DX の具体的施策
自治体 DX を進める際、具体的にはどのような施策が必要なのでしょうか。
ペーパーレス
これまで紙の書類で行ってきたやりとりをデジタル化します。それによって業務が簡素化し迅速になるほか、オンライン手続きへも移行しやすくなります。ペーパーレス化することで「脱ハンコ」が進み、テレワークの推進にもつながるでしょう。デジタル化や業務効率化の基本となる施策となり、紙の書類をファイリングしたり保管したりする手間や費用が削減でき、環境保全にも効果的です。
クラウドサービスの導入
自治体に新しくシステムやサービスを導入する場合は、オンプレミス型ではなくクラウド型のサービス利用を検討します。クラウドサービスはオンプレミス型と比較して初期コストを抑えられるほか、スピーディーな導入が可能です。また、時間や場所を問わずアクセスできるため、情報共有しやすいことも特徴です。進捗状況を一覧にして業務を見える化することや、テレワークの推進などに貢献します。
セキュリティ対策
自治体の業務にシステムやクラウドサービスを導入すると、そこから個人情報漏えいや不正アクセスが起こる可能性があります。そのため、アクセス権の設定やセキュリティツールの導入など、十分なセキュリティ対策が必要です。
AIチャットボット、RPA、FAQの導入
AIチャットボットやRPAを導入し、窓口やオンラインで住民対応に利用します。窓口や案内業務の多くを自動化でき、多言語化も容易に行えるため、大きな業務効率化が可能です。幅広い質問と回答を網羅できるFAQシステムを導入すれば、さらに個別対応を減らすことが可能です。
バックオフィス業務へのシステムの導入
バックオフィス業務もデジタル化して、システムを導入します。バックオフィス業務を大きく効率化でき、伝票処理や経費精算なども容易になります。
デジタルデバイド対策
デジタル化が進むと、インターネットやデジタル機器を利用する層としない(できない)層で受け取れる情報に格差が生まれる(デジタルデバイド)ことが懸念されています。自治体のサービスをデジタル化したとしても、地域社会でデジタル化に取り残される住民を出さないことが重要です。そのため、携帯電話会社やNPOと提携して教育やサポートを行う、デジタルデバイド対策を行います。
各種規制の点検・見直し
現在の規制や条例はデジタル化以前に策定されたものが多くあり、それらは基本的にアナログ業務を前提にしています。これを見直してデジタル化に対応させる必要があります。
地方行政のデジタル化については、次の記事も参考にしてください。
【イベントレポート】デジタルで行政と地域をつなぐ ~事例から考察する自治体ベストプラクティス~
自治体DXの先進事例
自治体DXの事例としては、次のようなものがあります。
愛知県瀬戸市
デジタル技術を活用した業務改善等の事例です。電子決裁機能付きの文書管理システムを導入し、行政事務のペーパーレス化を推進しています。さらに ファイリングシステムを導入することで、将来的には完全なペーパーレス化、文書の完全電子管理を目指しています。
参考:瀬戸市ICT戦略推進プラン・官民データ活用推進計画を策定しました | 瀬戸市
北海道北見市
行政手続きのオンライン化の事例です。フロントヤードのシステム化を進め、システムを利用して申請書の作成を支援する「書かない窓口」、手続きを住民異動窓口に集約する「ワンストップ窓口」などを実現しています。
また、RPAを導入することでバックヤードの負担を大きく軽減しました。
参考:窓口手続きの簡略化と統一化の取り組みについて(ワンストップサービス推進事業) | 北見市
熊本県熊本市
デジタルデバイド対策の事例です。市が民間業者と連携し、自治会長のデジタルスキル養成のための研修会を実施しています。さらに活用に積極的な自治会には、さまざまな講習を開催しています。
参考:熊本県ICT活用推進研修パッケージ【ガイドブック集】|熊本県ホームページ
自治体DXによる業務効率化や生産性の向上が求められている
これからはますます少子高齢化が進み、自治体においても必要な職員の数を確保するのが難しくなります。そこで必要なのが、デジタル技術で人間の作業を代行させることです。それによって業務効率化や生産性の向上が進み、人数が減っても業務を回すことができます。地方自治体の持続可能性を維持するためにも、住民向けサービスを向上させるためにも、自治体DXは不可欠といえるでしょう。
もし、DX化の取り組みを難しいと感じたら、バックオフィスから取り入れて、その効果を自治体内で実感するといいでしょう。例えば、経理部門に「Concur® Invoice」を導入し、請求書の処理を自動化すれば、大きな効率化が可能です。自治体DXの実証実験については、「自治体の内部事務業務デジタル化に関する調査と考察」の資料をご覧ください。
また、経費精算において、旅費・予算執行業務を効率化した例もあります。これについては、「【イベントレポート】最新情報!コンカーと自治体が共同で取り組む旅費・予算執行業務のDX化実証実験」をご覧ください。
参考: