経理・総務の豆知識
省人化とは?人手不足やコスト削減の課題を解決し作業品質安定にも効果あり
あらゆる業界・業種で人手不足が進んでいます。人材獲得競争が激しくなり、企業はなかなか必要な人材を確保できていません。そこで、多くの企業では省人化に注目しています。省人化により、人員を増やさなくても、業務を進めることが期待できるからです。
省人化のイメージや施策は業務効率化や省力化の施策と似ていますが、その2つの概念は異なります。しかし、施策が似ているので区別がつかないかもしれません。ここでは、省人化の概要と、業務効率化や省力化との違い、省人化が企業にどう影響するか、どのような施策を行うのか、などを紹介します。
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省人化とは
省人化(しょうじんか)とは、業務に携わる人員を最適化することです。省人化のための投資を「省人化投資」といいます。
省人化で行うことは、従業員の人数を削減することだけではありません。業務に必要な人数は確保し、少ない人数でも品質を維持します。そのため、業務の見直しと作業工数の削減(無駄な作業の排除)を経て、作業の効率化が行われます。
つまり、企業における省人化の目的は、人手不足やコスト削減などの課題を解決することです。
省人化が必要とされる背景
現在、多くの日本企業では慢性的な人手不足に陥っています。次の表は、求人倍率と完全失業率の推移を示したものです。
引用元:労働経済の推移と特徴 -雇用情勢の動向①-|厚生労働省
一方、総務省の労働力調査(基本集計)によると、労働力人口は横ばいであり、増加はしていません。[1] 今後は少子高齢化が進み、労働力人口は減少すると見込まれています。
また、労働基準法の改正により、2019年4月から残業時間に上限が定められました。大企業では2019年4月に、中小企業では2020年4月に順次施行されています。これまでは多くの残業で消化してきた業務を、労業基準法の範囲内で終わらせることが必須となります。
これらの複合的な要因により、労働力が不足しても業務を進められるような対策が必要になっています。その手段として省人化が注目されているのです。
省人化と少人化、省力化、効率化などの言葉の違い
省人化と似た言葉に、省力化、少人化、効率化などがあります。
- 省力化とは
人員の削減ではなく、無駄な作業や手間を可視化して排除することです。より少ない作業量・労働量で成果を上げ、結果としてコスト削減を実現します。
- 少人化とは
より少ない人数で業務を行えるようにすることです。省人化や省力化を進めていくと、その結果、少人化を実現できます。
- 効率化とは
業務効率化ともいいます。業務を見直し、最小の手間、最短の時間で実現することです。
省力化や省人化は、いずれも効率化を実現する方法のひとつといってよいでしょう。
省人化が企業にもたらす影響と注意点
省人化を進めることで、企業にどのような影響があるのでしょうか。
人材不足の解消
省人化を進めることで、人員が過剰な箇所を見つけることができます。人員の最適化とともに、作業の無駄も検証することで、従業員一人あたりの作業負担を軽減できます。負担が重いことによる離職を防止し、かつ従業員を増員せずに人材不足を解消できます。
業務のIT化、デジタル化
省人化を進めるための手法としてよく使われるのが、ITツールの導入です。業務のIT化やデジタル化を進めることによって業務効率化が実現し、従業員の負担を軽減できます。
業務の標準化
業務の見直しとデジタル化(ITツールの導入)を行うことで、無駄がないように改善した業務フローが、新しい「標準的な作業工程」として確立します。これを広く浸透させることで、業務の標準化が可能です。業務の標準化は、業務属人化の解消にもつながります。
生産性の向上
省人化を進めるということは、これまでよりも少ない人数で、同じ量の業務を行えるということです。これは生産性の向上につながります。
品質の安定
業務の標準化やITツールの導入により、作業品質や顧客対応のばらつきがなくなります。それによって、製品やサービスの品質を高い水準で安定させることが可能です。
ただし、省人化は企業によって良くない影響を与えることもあります。具体的には、次のような注意点があります。
初期コストがかかる
ITツールを導入するには、ある程度の初期費用がかかります。導入費用や、従業員への研修コストなどです。また、導入後の運用コストにも注意が必要です。費用対効果を見極め、自社にとって価値あるITツールを導入する必要があります。
人材確保の必要
ITツールを導入するには、デジタル技術に強い人材が必要です。しかし、デジタル人材は多くの企業で必要とされており、確保しにくい状況にあります。専門人材の確保が難しい場合は、誰もが扱いやすいITツールの導入を検討します。
省人化の施策と導入のポイント
省人化でよく行われる施策と、導入のポイントを紹介します。
省人化で行われる施策
省人化では、主に次のような施策が行われます。
- 現在の業務の把握・分析と改善
どんな施策を実施するにせよ、まずは現在の業務で行われている作業をすべて洗い出します。それから無駄な作業がないか、どの部分にITツールを導入できるかなどを分析します。無駄な部分があれば削除して、業務プロセス(工程)を改善することが必要です。
- ITツールの導入
分析によって、ITツールの効果が高いと思わる部分にITツールを導入します。システムの導入によって業務のデジタル化が進み、複数のシステムを連携することによって、さらなる効率化が可能です。
- AI-OCRの導入
AI-OCRにより、これまで作成・受領した書類や、これから受領する紙の書類をデジタルデータ化することが可能です。それによって業務のデジタル化を推進し、データの利活用や業務の自動化を進められます。
また、AI-OCRがあれば、これまで人が行ってきた画像解析やデータ収集などの業務を自動化できます。
- RPAの導入
RPAは、パソコンで行う作業を自動化できるツールです。複数のITツールを利用する業務フローを一連の作業として自動化すれば、従業員の作業を大きく軽減できます。それによって大きな省人化が可能です。
- チャットボットの導入
チャットボットに顧客対応、社内対応などの一部を自動対応させることで、従業員の作業を大きく軽減できます。
- セルフ注文システムやセルフレジの導入
実店舗において、購入処理を店員が対応せず、顧客自身が行うことで、店員の作業を軽減することが可能です。
- 作業ロボットの導入
製造・配送などの過程にロボットを導入して作業の自動化を進め、従業員の作業を大きく軽減します。
- アウトソーシング
複雑で高度な業務、専門性の高い業務はアウトソーシングする方法もあります。それによって、従業員を削減できるだけでなく、コスト削減にもつながります。
- テレワーク
テレワークの導入も省人化を進める方法のひとつです。テレワークが直接的に省人化につながるわけではありませんが、テレワークを推進するための業務のデジタル化や可視化といった施策は省人化の施策と重なります。
省人化の施策導入のポイント
省人化の施策を成功させるポイントには、次のようなものがあります。
- 企業全体で取り組む
省人化には、システムの導入や業務フローの改革が欠かせません。現場と管理職のどちらかだけの取り組みでは、うまくいかないでしょう。スムーズに進めるには、組織全体で取り組む必要があります。
- 従業員の理解と協力を得る
省人化は従業員の削減、つまりリストラにつながるイメージがあります。イメージが先行することで従業員が不安を感じることもあるでしょう。省人化の意義と、従業員の雇用については管理職と従業員がよく話し合って理解を得て、不安を解消する必要があります。
- 従業員の教育・訓練
省人化では、新しいシステムや機械、ソフトウェアなどを導入することが多いです。それらの操作については、企業から従業員に十分な教育・訓練を行う必要があります。
- テレワーク環境の整備
テレワークを導入する際には、安全なアクセス方法を確立して、作業しやすい環境を整えることが不可欠です。また、労働時間を基準にしない評価体系を整える、勤怠管理をデジタル化するなど、労働環境を十分に整備する必要があります。
- コストや効果の分析
施策が十分な効果を出しているかどうか、しっかり分析を行い、さらに施策を改善していく必要があります。
省人化の事例
省人化といえば、セルフレジや製造業でのロボット導入がイメージしやすいかもしれません。ここでは、企業のバックオフィスにおける省人化の事例を紹介します。
- オペレーションセンターでの処理自動化
顧客がサービスに加入する際の手続きと、金融機関からの引き落とし処理などをRPAで自動化した事例です。従業員の作業時間は、1件あたり半分以下にまで削減しました。
- チャットボット活用による問い合わせの削減
社内向けコールセンターにチャットボットを導入した事例です。チャットボット活用によって、電話による問い合わせ比率が半減し、自己解決型の問題解決が促進されています。
また、それまでは電話もしくはパソコンから問い合わせなければならなかったのが、スマートフォンで問い合わせできるようになり、問い合わせる側の利便性も向上しています。
- 伝票の読み取り・データ入力
メール、PDF、紙の書類などさまざまな手段で届く請求書を、請求書自動登録サービスで読み取り、自動的にシステムに登録します。
詳細:コンカー、SAP Concur App Centerサービスとして、ニーズウェルの請求書自動登録システム「Invoice PA」を提供開始 | SAP Concur
- サービス同士の連携により経費精算申請を効率化
タクシーアプリ「GO」と経費精算・管理クラウド「Concur Expense」が連携することで、タクシー料金に関するデータを自動的に経費精算システムに入力し、経費精算します。
詳細:コンカーの経費精算・管理クラウド「Concur Expense」、No.1*タクシーアプリ「GO」の法人向けサービス「GO BUSINESS」と機能連携を1月31日より開始 | SAP Concur
- サービス同士の連携により交通費精算を自動化
PASMOと「Concur Expense」が連携することで、近隣交通費の精算を自動化できます。
詳細:コンカー、PASMO連携による近隣交通費の経費精算自動化に向けた新サービスを提供開始
省人化は、申し込みや問い合わせなどの顧客対応、また経理部門をはじめとするバックオフィス業務でも大きな効果を発揮します。業務の見直しやデジタル化を進めることで、大きな業務効率化を実現し、作業工数を大きく削減できるからです。
省人化により人手不足を解消しながら顧客満足度を向上させられる
省人化を行うことで、企業の人手不足を解消して生産性を向上させることができます。省人化について、「ロボットの導入」というイメージから、製造業でよく行われる施策と考える人もいるでしょう。
しかし、省人化は作業を機械化し、従業員を減らすためだけのものではありません。ITツールやシステムを導入することで作業効率を上げ、より素早く正確な作業が可能になります。それによって人手不足の解消、コスト削減などの効果を得ながら作業品質を向上できます。従業員の長時間労働の是正にも貢献するため、従業員満足度の向上も期待できるでしょう。
人手不足に悩んでいる企業では、まずは省人化への取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
特に経理業務では、ITツールやシステムの活用によって、日々の作業の多くを自動化できます。例えば、経費精算を自動化するConcur Expense 経費精算システムや、請求書業務を一元管理できるConcur Invoiceなどを利用することで、経理業務での省人化を進めることができるでしょう。
省人化についてはこちらのebook「省人化による生産性向上〜大人材難時代に求められる経理業務のデジタル変革」でも解説しています。ぜひお読みください。