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【イベントレポート】デジタルで行政と地域をつなぐ ~事例から考察する自治体ベストプラクティス~
2020年9月8日から7日間にわたり、日本最大級の経理・財務部門向けのイベント「SAP CONCUR FUSION EXCHANGE 2020 JAPAN」の第3弾となるオンラインイベントが開催された。5日目となる9月23日には、地方自治体・公共機関を対象に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する地方自治体の取り組み事例、政府のデジタルガバメント実行計画の取り組み状況などを紹介するセッションが行われた。本記事ではセッション「自治体デジタルトランスフォーメーションの進め方」の抄録をお届けする。
各自治体が進める、デジタルトランスフォーメーションとは?
コロナ禍が続く中、広島県では県民生活に関わるあらゆる分野においてDXを推進し、新たな価値を創出して県民の暮らしを豊かにする取り組みを進めている。その中でも特に注力しているのが「行政DX」だ。これは「デジタル技術の活用により、すべての県民が仕事・暮らしにおいてゆとりを持ちながら、個々のニーズに合った最適なライフスタイルの選択肢が増えている状態」を10年後の目指す姿として定義し、県民一人ひとりに最適な行政サービスを提供する取り組みを指している。
この行政DXの取り組みを進めるために、広島県は山田仁副知事を本部長とする「広島県デジタルトランスフォーメーション推進本部」を2019年7月に設置。県の各所管局とも連携を取りながらDX施策の企画立案・調整を担当する「デジタルトランスフォーメーション推進チーム」が実行するという体制を作り上げた。具体的には、窓口に行かなくてもオンラインで利用できるように行政サービスの電子化・効率化を進めるとともに、行政データのオープン化、個人の特性に応じたプッシュ型サービス提供の実現などに取り組んでいる。
愛知県春日井市では、2017年4月に「ICT推進室」を設置し、同部署が中心となって市民サービスの利便性向上、および職員の労働生産性向上を目指したDXの取り組みを推進している。市民サービスの利便性向上を実現する具体的な取り組みとしては、2018年3月に行政情報や気象情報、警察からの安全・安心情報をはじめ、市内の施設一覧、イベント情報、ごみ分別など春日井市の様々な情報を発信する市公式アプリ「春ポケ」の配信を開始。また、2019年1月には未就学児の子育てに関する質問を24時間365日自動回答するチャットボット「教えて!道風くん」の運用を開始している。一方、職員の労働生産性向上を実現する取り組みとして、2019年7月に市立小中学校54校の経理を担当する教育総務課にRPAを導入。財務会計システムへ自動登録する仕組みを構築し、職員の作業時間を200時間削減するという効果が得られているという。また、2020年7月にはAI OCRを導入するなどの業務効率化施策に取り組んでおり、今後は紙媒体のデータ化にも取り組み、更なる効率化を図るという
東京都三鷹市では、2020年3月に「みらいを作る三鷹デジタル社会ビジョン」を策定し、DXを推進する取り組みを進めている。従来、三鷹市では情報化計画を策定し各種施策・事業を進めるという方法をとっていた。しかしこの方法では、デジタル技術の急速な進展により数年で時代に合わなくなってしまうおそれがある。そこで従来のような計画ではなく、今後の方向性を示すためのビジョンを策定し、将来的な展望を示しながら「今すべきこと」を明確にするという方針に切り替えた。それが「みらいを作る三鷹デジタル社会ビジョン」だ。具体的な取組の例として、保育所入所に関する事務にRPAやAI- OCRを導入して業務の自動化・効率化を図る実証実験を行っており、約6割の効率化が図れる見込みだという。ほかにも、ごみ分別・選挙・国勢調査などに関する情報を案内するチャットボットを導入したり、データ分析・活用のツールの導入や、駅前公衆無線LANサービスの提供を開始したりという取り組みも進めている。
行政のDXを進めるうえでの課題については、3団体とも現在の紙プロセスを変えていく過渡期にあたって一時的に業務が停滞してしまうことを懸念していた。特に、対市民サービスの部分は個人情報保護との兼ね合いが難しく、国主導でのデジタル化に頼らざる得ない状況であるという。
以上が「自治体デジタルトランスフォーメーションの進め方」の抄録だが、これを受けてコンカーが提案したいのが、内部業務のデジタル化だ。内部事務は日々繰り返し作業が多く、いわば労働集約的業務と言える。こればまさにデジタル技術と相性のよい分野であり、まずは内部事務からDXに着手して、その成功体験を全職員に実感させることでデジタル化の意識付けを行うのである。
例えば働き方改革では、紙ベースの業務をモバイル化・ペーパーレス化・キャッシュレス化し、業務効率化を実現できる。管理の高度化については、すべてのデータを細分化した状態で可視化することにより、ガバナンス強化とコスト削減が可能になる。さらに標準化については、民間企業で培ってきたベストプラクティスを自治体にも適用・最適配置することで「真の自治体クラウド」が実現される。これらを達成することで、人の意識改革や先進的風土の醸成、デジタル人材の発掘にもつながる。
コンカーでは今後も全国の地方自治体を対象に「スマート自治体」の実現に向けた支援を強力に推進していきたいと考えている。