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【イベントレポート】自治体DXウェビナー:2024年度から取り組むべき自治体DXと業務プロセス改善(前編)
本年6月、「SAP Concur Fusion Exchange 2024– Public Deep Dive –」(主催:学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学、株式会社先端教育事業)が開催されました。その初日に「【自治体DXウェビナー】 予算執行・旅費精算の見直し〜2024年度から取り組むべき自治体DXと業務プロセス改善」を実施いたしました。本稿ではその内容をレポートします!
セミナーでは、自治体のデジタル化推進に焦点が当てられました。2023年末に「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル第2.0版」が公開されたことを受け、2024年度は自治体がデジタルを前提とした業務プロセス改善に取り組む絶好の機会だと強調されました。特に注目されたのは、業務プロセスの効率化とデータ利活用の実例紹介です。また、今年度中に予定される公務員旅費法の改正についても触れ、これらが業務改善にもたらす影響が議論されました。
イベント開催の背景と目的
冒頭では、株式会社コンカー シニアバイスプレジデント 常務執行役員 下野は、社会全体のデジタル化が進む中、自治体の内部事務は条例や規則のために変革が難しいことを指摘しました。
この課題に対して、予算執行管理と旅費精算の分野から改善を始めてはどうかと提言します。特に興味深いのは、予算執行業務を財務会計システムから独立して考えるという発想です。これにより、今までは難しかった大きな業務改革が可能になるかもしれないとのことです。
また、来年度予定の旅費法改正を自治体の業務改革のチャンスとして捉え、この機会を活用すれば、業務の効率化が大きく進む可能性を示しました。
自治体DX推進における国の動向
まずは、総務省 自治行政局 地域政策課 地域情報化企画室課長補佐 箭野 愛子氏による基調講演をいただきました。
2070年には日本の総人口が9000万人を下回り、高齢化率が39%に達するという推計を紹介しました。また、2023年の出生数が過去最少の75.9万人だったことにも言及しています。
この人口動態を背景に、自治体での人手不足が深刻化すると予測し、業務効率化の必要性を強調しました。具体例として大阪府泉大津市の窓口業務分析結果を取り上げました。この分析によると、業務の半分が申請受付や入力確認などの単純な事務作業で、相談や訪問、事業計画などの業務はわずか2割弱だったとのことです。
箭野氏はこの結果を踏まえ、デジタル化の目的を単なる人員削減ではなく、業務の質的転換のツールとして捉え直すよう提言しました。効率化で生まれた時間を対人的な業務や企画的な業務に振り向けることで、より充実した行政サービスの提供が可能になるとしています。さらに、従来、デジタル化は主に人員削減の手段として捉えられがちでしたが、自治体DXが単なる業務の合理化にとどまらず、行政サービスの質的向上と職員のワークライフバランス改善につながる可能性を示唆しています。
具体的には、単純な事務作業を減らすことで、より少ない人数でも人間にしかできない高度な業務に注力できるようになると指摘しました。効率化によって生み出された時間を、「time for innovation」と表現し、対人的な業務や企画的な業務に充てることの重要性を説きました。
さらに、業務効率化の効果は職員の働き方改革にも及ぶと主張しました。これまで事務作業の繁忙により発生していた残業時間を削減し、職場外での時間を増やすことができるとしています。
政府による自治体デジタル化の取り組みの歴史
電子政府・電子自治体推進は、2001年のe-Japan戦略から取り組みが本格化しました。2002年には住基ネットが稼働し始め、2016年にはマイナンバー制度の導入、2018年には世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画が策定され、行政のあり方そのものをデジタル前提で見直すデジタルガバメントを目指した自治体デジタル化の歴史を紹介しました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本のデジタル化の課題が浮き彫りになったことも言及されています。
これらの背景を踏まえ、単なるオンライン化やICT化ではなく、行政サービスの仕組み自体を変える「DX」が重要だと強調し、DXを「これまで諦めていたことをデジタル技術で実現し、新しい価値を生み出すこと」と定義しました。
また、マイナンバーカードをDX推進の重要なツールとして位置づけ、その活用を提言しました。自治体DXの中心は、住民との接点である「フロントヤード」の改革と、内部事務である「バックヤード」の改革をデータ連携で結びつけることだと述べています。
例えばフロントヤード改革の具体例として、マイナンバーカードを利用したオンライン申請の強化や「書かない窓口」の実現を挙げました。さらに、救急搬送時にマイナンバーカードで薬の情報を確認するなど、行政サービスの質的向上につながる活用方法も提案しています。
自治大DXの中心となるマイナンバーカード
フロントヤード改革の中心にはマイナンバーカードの活用があり、これによりオンライン申請の促進や窓口での手続き簡素化が可能になるとしています。また、オムニチャネル化の推進により、窓口以外の接点を増やし住民の利便性を向上させる方針が示されました。具体例として、スマホでの来場予約、ワンストップ窓口の設置、書かない窓口の実現、郵便局や公民館でのリモートサポートなどが挙げられています。
業務面では、窓口での紙ベースの作業をデータ対応に移行し、バックヤードも含めたエンドトゥエンドのデジタル化を推進する方針が示されました。同時に、自治体情報システムの標準化を進めることで、より効果的なデータ連携を可能にし、住民サービスの向上と業務効率化を図るとしています。
さらに、庁舎の利活用についても言及がありました。単なる手続きの場所から、住民との相談交流や企画立案、地域社会の活性化を担う場所への転換を目指しています。
箭野氏は、これらの改革が住民の利便性向上だけでなく、自治体職員の業務効率化にもつながると強調しました。また、金融機関などで先行している顧客満足度向上の取り組みと同様の方向性であると指摘し、きめ細やかな対応に重点を置き、住民満足度の向上を目指すことの重要性を強調しました。
自治体DXの事例
静岡県裾野市と三重県志摩市の事例を取り上げます。裾野市では来庁予約システムとオンライン入力システムの導入により、住民の利便性向上と年間9500時間の業務時間削減を実現。この時間を企画立案に充てられるようになったとのことです。志摩市ではマイナンバーカードの活用で入力負担が軽減され、人為的ミスの減少や人員の効率的配置が可能になったそうです。しかし、自治体の規模によって改革の進捗に差があり、個別の取り組みに留まっている可能性も指摘されました。この課題に対応するため、総務省は今年度、人口規模別に総合的な改革モデルを構築し、横展開を図る「自治体フロントヤード改革支援事業」を開始するとのことです。
業務のデジタル化について、箭野氏はロボット掃除機の例を用いて興味深い比喩を展開しました。ロボット掃除機の導入が家の整理整頓につながるように、デジタル化は単にシステムを導入するだけでなく、業務フロー全体の見直しが必要だと強調しています。具体的には、オンライン申請システムを導入しても、それを印刷して紙処理を行ったり、紙申請と電子申請を並行して処理したりすることで、かえって業務量が増える可能性を指摘。対面での申請でもタブレットを使用して電子入力を行い、データを一元化することの重要性を訴えました。
令和7年度までに20の基幹業務システムをガバメントクラウド上の標準準拠システムへ移行する取り組みが各自治体で進行中です。
この標準化により、全国の自治体でオンライン申請の基盤が共通化され、行政サービスへのアクセスが向上すると箭野氏は期待を示しました。また、自治体側のメリットとして、制度改正時のシステム改修負担軽減やデータの標準化による新たな政策立案への活用可能性を挙げています。
主な課題はデジタル人材の不足
小規模自治体では「一人職問題」が顕在化しており、専門知識を持たない職員が十分な引き継ぎもなく担当せざるを得ない、過酷な状況だといいます。さらに、多くの市区町村でデジタル人材の確保・育成方針が未策定であることも明らかになりました。その背景として、人的余裕の不足や求める役割・スキルの明確化の難しさが挙げられています。加えて、人事部局の協力や首長・幹部の理解が得られないケースもあると箭野氏は指摘し、全庁的な意識醸成の重要性を訴えました。
箭野氏は、DX推進には首長や幹部のリーダーシップによる全庁的な取り組みが不可欠だという見解を示しました。また、即戦力となる外部人材の活用も提案しましたが、現状では半数以上の自治体がまだ外部人材を活用できていないという課題も明らかにしました。
総務省のDX支援
総務省が講じている支援策として、専門アドバイザーの派遣やCIO補佐官等の外部人材任用に対する特別交付税措置を提供しています。しかし、DX推進の課題に対応するため、総務省が全都道府県にヒアリングを実施した結果、都道府県主導の全県的なDX推進体制構築の重要性が浮き彫りになったといいます。
先進事例では、県と市町村の緊密な連携と信頼関係が成功の鍵であると分析し、今後も支援策を拡充し、自治体との連携を通じてDXを推進していく意欲を示しました。
AI時代を見据えて今取り組むべき内部事務改革
続いて、株式会社コンカー公共営業部部長 長谷 が、AI時代を見据えた業務プロセスとデータ整備について説明しました。コンカーのソリューションは全世界で9300万人のユーザーを抱え、膨大な経費データを蓄積していることが今後のAI開発において強みになると述べました。
自治体業務における課題
多くの自治体では見積書や請求書を紙で受け取り、財務会計システムに手入力で伝票入力を行っている現状を指摘しています。さらに、上長や会計審査の担当者が目視でチェックを行っており、税金を扱う立場から非常に慎重かつ時間をかけて確認作業を行っている実態があるとのことです。
これに対し、コンカーのサービスを導入することで、電子データによる処理や自動チェック機能の活用が可能になると説明しました。具体的には、紙の書類を電子見積や電子請求書といったデジタルデータに置き換え、それを電子決裁で処理し、システムによる自動チェックを実施することで、業務効率の大幅な向上が見込めるとしています。さらに、このデジタルデータを集計・可視化して活用することで、業務改善のサイクルを円滑にすることが可能です。旅費精算業務においても同様の改善が可能です。現金支払いと紙の領収書に依存した現行のシステムから、クレジットカードやQRコード決済、ICカードなどのキャッシュレス決済データを活用したデジタル管理への移行を提案しています。これにより、データの取り込みから処理、チェック、可視化までの一連のプロセスをデジタル化できると示しました。
将来的にクラウドサービスにAIが実装されることで、新たな技術による改革が可能になります。デジタルデータの可視化による継続的な業務改善や、コストをかけずに設定変更だけで改善が可能になるといいます。
人ではなく、データを働かせる
「人ではなく、データを働かせるのがDXの真髄」だといいます。データが働きにくい環境の特徴として、紙の使用や手入力、目視確認などの物理的な制約を挙げ、これらがデータの流れを遮断すると指摘しました。また、人の判断が多く介入する場面や、複雑な業務フロー、属人的なオペレーションもデータの効率的な活用を妨げると述べました。
これらの課題を解決するため、講演者は物理的な制約をなくし、人の判断をデータによるロジック判断に置き換え、業務フローをシンプル化し、標準化されたオペレーションを構築することを提案しました。しかし、法令や条例などの制約により、現時点で完全に人を介さない業務は不可能であることも現実的であるため、データを前提とした業務オペレーション基盤を構築し、段階的にデータシフトを進めていく方法を提案しています。
自治体のDXの具体的な進め方と展望
DX推進の第一歩としてデジタルを基盤とした新しい業務設計の重要性を強調しました。具体的には、電子請求書やキャッシュレスデータの活用による入力効率化、人の目で行っていた審査項目のデジタルチェックへの移行、そして重複業務の削減を目指した業務フローの整理などがあります。
これらの取り組みを進める上で、実証実験の重要性も指摘されました。各自治体の現状(As-Is)、目標(To-Be)、実現可能な姿(Can-Be)を明確にし、効果測定を行うことで、定量的・定性的な効果を実現できると述べました。
ガバナンスリスクへの対策
しかし、データ活用にも限界があるのが現状です。ミスの撲滅、可視化、注意喚起、気づき、モニタリングなどの面では、デジタルデータから得られる情報を基に、依然として人が判断してガバナンスを向上させる必要があると指摘しました。入力の誤り、経費の使いすぎ、支払いの遅延、支払い漏れ、不正利用などの問題に対し、現在は目視でチェックしている状況を指摘しました。
これらの課題に対し、データのロジックによる自動チェックを導入することで、ミスの撲滅、予算状況・処理状況の可視化、自動規定チェックによる注意喚起、アラートメールによる気づき、データ分析によるモニタリングが可能になると説明しました。このような取り組みにより、60%から70%の業務削減効果が見込まれます。
改めてコンカーの主力サービスである「Concur Invoice」と「 Concur Expense」について、予算執行と旅費精算の分野での活用方法を紹介します。
特に予算執行業務のDX化については、現状の自治体の業務プロセスを考慮した段階的なアプローチを提案しています。第一段階では、現行の紙やPDFでの請求書処理を維持しつつ、これらを手入力でデータ化します。このデータを基に決裁フローを電子化し、審査プロセスの一部自動化を図ります。これにより、人手による確認作業を減らし、処理速度の向上と人為的ミスの削減を目指します。
次の段階では、AI OCR(光学文字認識)技術を活用して、紙やPDF文書の自動デジタル化を進めます。これにより、手入力の手間を大幅に削減し、データ化のプロセスを効率化します。AI OCRの導入により、データの正確性も向上すると期待されています。
最終的な目標は、完全な電子データでの処理です。請求書や関連文書が最初から電子形式で提出され、システム内でシームレスに処理される環境を目指しています。これにより、データの入力から承認、支払いまでの全プロセスを自動化し、大幅な業務効率の向上を実現します。
自治体における旅費精算業務の課題
次に、来年度4月に予定されている大きな制度変更に触れ、この変更が旅費精算業務に与える影響の重要性を強調しました。
70年前に作られた旅費法に基づく業務設計が、デジタル化の大きな障害となっていると指摘しました。具体的には、旅行前の詳細な命令書作成や、帰着後の差分精算など、手入力や審査に多大な工数がかかっている現状を挙げています。特に、現行の定額支給制度がデータ活用の余地を阻んでいます。しかし、来年度4月に予定されている国家公務員の旅費制度改正が、この状況を大きく変える可能性があると指摘しました。定額制から実費精算への移行により、キャッシュレスデータを直接活用できるようになり、DX推進の大きな転換点になると述べました。
コンカーの強みとして、さまざまなキャッシュレスデータの自動連携機能を挙げ、これにより旅費精算のデジタル化が容易になるといいます。
実証実験の業務削減効果は平均58%
これまでさまざまな規模の自治体と実施した結果を紹介しました。
平均して58%の業務削減効果が見込まれるという高いポテンシャルを示したといいます。この数字は、今後の導入に向けた明確な目標設定になると述べています。実証実験の主な進め方についてはまず事前準備として他の自治体の事例紹介や課題のヒアリング、デジタル化によるガバナンスの担保方法の提示、簡易的な効果算定を行います。次に、約1カ月かけて詳細な業務分析を実施し、現状(As-Is)から理想的な状態(To-Be)、そして実現可能な状態(Can-Be)を定義していきます。最後に、もう1カ月かけて効果算定を行い、具体的な改善策を提案します。
全体のスケジュールとしては約3カ月を想定しており、最初の1カ月で予算要求に進むかどうかの判断ポイントを設けていると説明しました。また、すべての文書作成や分析はコンカー社が行い、最終的に詳細な報告書として提出します。
AIの時代に向けたデータ整備の重要性を指摘しながらも、自社としての経験値にもまだ改善の余地があるため、多くの自治体との協働を通じて、共に改革を進めていきたいという意欲を示しました。
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前編はここまで!後編も合わせてご一読ください。