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【イベントレポート】自治体DXウェビナー:2024年度から取り組むべき自治体DXと業務プロセス改善(後編)
「SAP Concur Fusion Exchange 2024– Public Deep Dive –」(主催:学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学、株式会社先端教育事業)が開催されました。その初日に「【自治体DXウェビナー】 予算執行・旅費精算の見直し〜2024年度から取り組むべき自治体DXと業務プロセス改善」を実施いたしました。先だって公開した前編に続き、後編をレポート!
予算執行業務におけるDX
続いて、富士ソフト株式会社ソリューション事業本部 情報ソリューション事業部 クラウドサービス部クラウドサービスインプリメンテーショングループ/課長 中村 裕 氏より、自治体業務の予算執行業務におけるDXの現状と、コンカーとともに取り組んでいる実証実験についてお話しいただきました。
自治業務の予算執行業務におけるDXの現状
2022年4月に総務省が発行した「自治体デジタルトランスフォーメーション推進計画第2.0版」に基づき、自治体がDXに取り組む意義を二点紹介しました。
一つは、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上させること、もう一つは、業務効率化により人的資源を行政サービスの更なる向上に振り向けることです。
また、2020年の新型コロナウイルス対応を契機に、社会全体でDXの必要性が急速に高まったこともあり、同年末には「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定され、一人一人のニーズに合ったサービスの提供や、誰一人取り残さない人にやさしいデジタル化というビジョンが示されています。住民に身近な行政を担う自治体のDX推進が、デジタル社会実現のために極めて重要であると指摘しています。
続いて、自治体業務のデジタル化に関する調査結果を紹介しました。この調査によると、財務会計に関わる業務、特に予算執行業務のデジタル化の必要性が高いことが明らかになりました。しかし、現状の予算執行業務におけるデジタル化の度合いは低く、見積書の登録から支払い処理に至るまで、7割から8割の業務が依然として紙を利用していることが報告されました。
「紙文化」からの脱却が自治体DXの第一歩
予算執行業務の効率化が住民の利便性向上や行政サービスの改善につながるという見解も示されました。これは、デジタル化によって生み出された時間や資源を、より価値のある業務に振り向けることができるという考えに基づいています。
自治体業務のデジタル化に関する調査結果によると、予算執行業務において、見積書の登録から支払い処理に至るまで、7割から8割の業務が依然として紙を利用している現状を指摘しました。この「紙文化」からの脱却が自治体DXの第一歩であり、予算執行業務の効率化が住民の利便性向上や行政サービスの改善につながるという見解を示しました。
予算執行業務におけるDX
しかし、DX実現に向けては現場からは抵抗の声を多く聞きます。長年培ってきた業務への慣れ、ルール変更への不安、そしてデジタルへの漠然とした不信感。これらの抵抗感を無視しては真の改革は進まないでしょう。そこで提案するのが「スモールスタート」のアプローチです。少額予算の消耗品購入や定型業務など、身近で影響の少ない領域から着手し、短期間でDXを体験する実践的な提案に、参加者の多くが興味を示した様子でした。
このアプローチによって業務効率化やガバナンス強化だけでなく、デジタルへの不信感の払拭も期待できます。最終的には、自治体職員のDXに対する前向きな姿勢を育み、組織全体の意識改革へとつながるといいます。
デジタル化の検討の急務
続いては、コンカー パートナーアンドカスタマー統括本部公共営業本部公共営業部パブリックセールスエグゼクティブ岩屋より実証実験について紹介します。
民間企業での豊富な経験を基に、多くの自治体で実証実験を行い、予算執行領域のDXに向けた基盤作りを支援してきました。自治体職員の約8割が内部事務領域のデジタル化の必要性を認識している中、特に財務会計システムの改革が急務であると指摘します。労働人口減少による職員不足や、複雑化する住民ニーズ、さらにはパンデミックのような突発的リスクへの対応など、自治体が直面する課題を挙げ、デジタル化の重要性を訴えかけました。
LGWAN(総合行政ネットワーク)のデータ連携
多くの自治体が財務会計システムをLGWAN(総合行政ネットワーク)環境で運用しています。この保守的な環境と、インターネット環境で提供されるコンカーサービスとの連携が課題でしょう。
中村氏は富士ソフトが開発した「ベッドRPA」を紹介しました。このロボットによる無害化処理を用いることで、財務会計システムとコンカー間での日々のデータ連携を自動化し、効率的に実現できると説明しました。
実証実験による導入効果の試算
多数の科目の中から、特に処理数が多く、商取引や購買業務が一貫している5つの科目に絞って実証実験を行いました。
現状の予算執行業務プロセスについては、人手による紙の回覧が基本となっており、印刷や捺印など紙ベースの作業が多いことを指摘しました。これに対し、コンカーインボイスを導入した後の理想的なプロセスを提示しました。新しいプロセスでは、請求書発行からデジタル化を行い、取引業者とのやり取りもデジタルで行うことで、請求書データを直接処理できるようになると説明しました。さらに、コンカーシステムによる請求書の自動振り分けや規定内容のチェック機能により、ガバナンスを維持しながら業務効率化を図れるとしました。
宮城県との実証実験の結果を基に、予算執行業務のデジタル化がもたらす具体的な効果について紹介します。
宮城県では支出命令業務を中心にしまして年間約19万5000件もの予算執行業務が行われており、この業務をコンカーインボイスで実施することによりまして、どの程度の業務時間の削減になるのか、これを試算したものとなります。結果として、年間約5万4千時間、費用換算で約1700万円もの削減、現状の約60%削減という非常に大きな効果を見込めることがわかっております。また起案者、決裁者、審査者、いずれの役割の方につきましても、現在の半分以上の業務効率化ができることも確認できております。
これは予算執行業務、いわゆる請求書に伴う業務が民間と同様、デジタル技術との相性がよく、またデジタル化による効果が大きいためだというふうに考えられます。
大規模ユーザーでもある富士ソフトが経験を活かしたサポートを提供
富士ソフト社は、中央省庁での多数の実績、特に消費者庁システムのガバメントクラウド移行事例が紹介されました。地方自治体向けのペーパーレス会議システム「モアノート」の普及や、教育分野でのGIGAスクール対応、メタバースを活用した不登校支援など、幅広い取り組みをしています。
今後も地方自治体の改革支援を続ける決意富士ソフトの活動に注目が集まります。
旅費法改正を踏まえた旅費精算業務プロセス改善
続いて、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社ディレクター 富田 吉隆 氏、マネージャー 大久保 悠 氏、シニアコンサルタント 大石 陽菜 氏、コンサルタント 楠木 貴也 氏より、旅費法改正における自治体の業務課題や背景について紹介されました。
民間事例に学ぶ旅費法改正に伴うDXへの挑戦
富田 氏は、旅費制度改革の背景として3つの要因を挙げました。第一に、物価上昇や為替変動、コロナ禍以降の働き方の変化により、現行の定額支給ルールと実態との乖離が拡大していること。第二に、デジタル技術の発展により、事務処理の効率化や証憑の電子化が可能になったこと。第三に、国家公務員等の旅費制度改正法案の可決が改革の後押しとなっていることです。
そして、現行の旅費制度の課題として、煩雑な事務手続き、定額を超過する分の自己負担、一時的な立て替え負担などが挙げられました。
これらの課題に対応するため、今回の法改正では規定の簡素化、支給対象や形態の実態に合わせた変更、さらに不正防止や抑制のための仕組みの導入が目指されていると説明しました。
民間企業における旅費業務の変革事例
大久保氏は、次のように語ります。民間企業で旅費精算における業務の改革が求められた法制度改正とは、令和3年度の税制改正において抜本的に見直しが図られた電子帳簿保存法となります。
この改正により、領収書や請求書などの書類を外部機関から電子データで受け取った場合に、電子データのまま保存することが求められました。これにより、民間企業各社において、この法制度に対応したシステムの準備が必要となりました。
従来のアナログな業務プロセスから、例えば、従来は紙の領収書や請求書を使用し、エクセルで申請書を作成、システムへの重複入力や紙の回覧、押印が必要でしたが、新しいプロセスでは申請者が領収書や請求書を電子データ化してシステムにアップロードし、パソコンやスマートフォンでどこからでも申請できるようになりました。
特に注目すべき改善点として、クレジットカードや交通系ICカード、タクシーの配車アプリなどの利用データを経費精算システムに自動連携させる仕組みが紹介されました。また、システムによる自動チェック機能の導入により、各企業の規定やルールに沿った申請かどうかを自動で確認し、申請の不備や不正を未然に防止できるようになったことが強調されました。
これらの変革により、ペーパーレス化による業務負荷の軽減、モバイルアプリによる働き方改革への対応、データ活用によるガバナンスの向上という3つの主要な改善が実現したといいます。
業務変革とシステム刷新における典型的な課題と対応策
多くの組織で見られる3つの主要な課題を提示しました。
第一の課題は、明文化されていない業務慣習や暗黙のルールの存在です。この問題に対しては、業務の棚卸しを行い、標準的な業務プロセスを再構築することが重要だと強調しました。これにより、作業の効率化や合理化が可能になります。
第二の課題として、従来の業務をそのままシステムに移行してしまうケースを挙げました。このアプローチは使いづらいシステムの構築や、数多くの例外的処理の発生につながる危険性があると警告します。対策として、業務の標準化に加え、他社で採用されている類型化された業務モデルの適用を提案しました。
第三の課題は、複数部門にまたがる業務改革における合意形成の難しさです。部門間の意見の相違が、業務変革やシステム導入の遅延、さらには計画の頓挫を招く可能性があると指摘しました。この問題に対しては、組織全体の目標を可視化し、全体最適を目指した意思決定の重要性を強調しました。
公共領域における制度改正時の対応
大石氏は、次のように語ります。電子請求の導入事例を挙げ、業務時間の長さ、手戻りの多さ、請求書受領の遅さという三つの課題があり、制度改正対応には制度、業務、システムの三側面からのアプローチが不可欠だといいます。
制度面では、規則や条例の変更が必要となりますが、講演者は単なる法的対応にとどまらず、業務やシステムと並行して検討することの重要性を指摘します。特に、現行の規則を見直す好機としてとらえ、より効率的な業務設計につなげるべきだと提言しました。
業務面では、自治体特有のネットワーク構造を考慮することが重要だと説明しました。特に、異なるネットワーク領域間でのデータ移動を最小限に抑えることで、作業効率の向上が図れると指摘しました。
システム面については、既存機能の最大限の活用を提案しました。特に、クラウドツールの標準機能を利用することで、人の作業を自動化し、ガバナンスの強化にもつながると説明しました。さらに、効率的な検討方法として、他自治体の事例参照、民間のベストプラクティスの活用、クラウドツールの標準使用などを提案しました。これらのアプローチにより、短期間で効果的な制度改正対応が可能になると強調しました。
旅費法改正に伴う国家公務員等の旅費業務プロセスの変化
楠木氏は、改正が引き起こす三つの主要な変化点を紹介しました。
第一に、事務手続きの簡素化と効率化が挙げられます。従来の紙ベースの複雑な申請プロセスが、システムへ一元化された入力に置き換わることで、計画から決裁までの業務が大幅に効率化されると説明しました。また、旅行代理店経由での手配が認められるようになることで、職員の申請業務と承認業務が簡素化されます。
第二の変化点として、支払い方法の拡充が挙げられます。これまで定額支給だった宿泊費について、実費負担が認められるようになる点が大きな変更点だと指摘しました。さらに、概算払いの拡充により、職員個人の一時的な経済的負担が軽減されます。
第三に、分析検証基盤の構築が挙げられます。各組織が旅費業務に関するデータを集計・分析する仕組みを構築することで、業務処理の迅速化、実績把握の向上、旅費節約、不正防止などが可能になると説明されました。
各自治体は、現行の旅費業務プロセスの課題を十分に把握し、あるべき改善策を検討することが重要だといいます。
旅費業務プロセスの現行課題と改善策
現行の旅費業務における四つの主要な課題は、為替・物価変動による自腹負担の発生、紙ベースの複雑な申請・承認フロー、自宅発着の旅費における負担、そして紙証憑の保管コストです。
旅費法改正に伴う直接的な改善点として、宿泊料の実費支給とシステム統一による業務効率化が挙げられます。実費支給により、為替変動による自腹負担の問題が解消され、システム統一によって紙ベースの複雑な申請・承認フローが簡素化されることが期待されます。
さらに、民間事例を参考にした改善案として、法人カードの利用による申請負担の軽減、データの自動連携による入力負担の削減、証憑の電子化による保管コストの削減が提案されました。これらの施策により、自宅発着の旅費における負担や紙証憑の保管コストといった課題も解決できる可能性が示されました。
加えて、システムを活用した旅費データの実態把握や不正検知も可能になると説明されました。これは、単なる業務効率化だけでなく、組織全体のガバナンス強化にもつながる重要なポイントです。制度変更を単なる法令順守の問題として捉えるのではなく、業務プロセスとシステム全体を見据えた包括的な改善・効率化の機会として捉えるべきだと訴えました。
北海道庁の実証事例に学ぶ旅費業務改革
最後に、株式会社コンカーソリューションコンサルティング部 部長 那須浩史より、北海道庁の実証実験について紹介します。
この実証実験は、約2ヶ月間、週1回の定例会議を通じ、財務システム再構築に向けたRFIの一環として行われ、組織と個人の両面から目的が設定されました。組織レベルでは、電子決裁化によるペーパーレス推進や柔軟な働き方の実現、旅費法改正への対応が主な目標でした。個人レベルでは、旅費関連業務の簡素化や実費負担の軽減が重視されました。
実験は4段階で進められ、現行システムの分析から始まり、業務フローの詳細な確認、目指すべき姿の検討、そして効果の算出まで行われました。特筆すべきは、現状の課題だけでなく、新システム導入時に発生し得る潜在的な課題も検討された点です。
結果として、新システム導入により業務時間が約60%削減できる可能性が示されました。この削減率は旅行者、旅行命令権者、審査者、会計課それぞれで異なり、詳細な分析が行われています。
実証実験から見えたやめるべきこと、取り組むべきこと
旅費法改正の最大のポイントとして、定額支給から実費支給への移行を挙げました。これまでの定額支給制度は古い技術や情報量に基づいて設定されており、現代の状況に適していないと指摘しました。特に宿泊費に関しては、現行の甲乙区分による定額制度が職員の自己負担や例外申請の多発を招いているという課題を挙げ、実費支給への移行の必要性を強調しました。
この変更に伴い、自治体が取り組むべき重要な課題として、適切な上限金額の設定を挙げました。講演者は、各自治体がそれぞれの状況に応じた上限金額を設定する必要があり、そのためには自組織の実態把握が不可欠だと説明しました。
また、やめるべきこととして、概算払いと返納の慣行を挙げました。これらの手続きが非効率であり、特に返納が発生した場合に膨大な工数がかかることを指摘しました。代わりに、旅行代理店の利用やクレジットカードの導入により、これらの手続きを不要にできると提案しました。
さらに、厳格な事前申請もやめるべきだと主張しました。ダイナミックプライシングの普及により、事前の正確な費用見積もりが困難になっていることを理由に挙げ、代わりに旅行後の精算時のチェック強化を提案しました。
取り組むべきこととしては、システムやAIを活用した不正防止と適正チェックの強化を挙げました。また、データの可視化による業務改善や、旅費業務の自動化・効率化により生み出された時間を住民サービスに充てることが重要です。
旅費法が改正される今、働く職員の付加価値を高め、働き甲斐のある時間を生み出すため、デジタル化による抜本的な業務変革が重要だといいます。
「SAP Concur Fusion Exchange 2024」1日目を終えて
当日は自治体のDXにおいて浮き彫りになっている課題と、それに対応する視座が紹介され、非常に有意義で濃密な時間となりました。差し迫っている法改正にともない、特に予算執行業務と旅費精算業務のデジタル化が喫緊の課題であることが強調されました。
全体を通じて、旅費法改正を単なる制度変更としてではなく、自治体全体の業務改革の契機として捉える視点が議論されました。
引き続きコンカーは、自治体の従前的な業務に関するDX化に向けて現場に寄り添ったソリューションとサポートを提供していきます。併せて、2日目に開催された高等教育期間向けのイベント内容についても別途レポートしています。
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