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【イベントレポート】研究費管理と経費精算業務のデジタル化構想(前編)
2024年6月25日「【大学DXフォーラム】 研究費管理と経費精算業務のデジタル構想」(主催:学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学、株式会社先端教育事業)が、高等教育機関の経営層や事務局、情報システム課、財務経理課などを対象に開催されました。
当日は、急速な少子化が進行する中での高等教育の在り方や、大学における経費精算業務の効率化とガバナンスの両立について、文部科学省 大臣官房審議官(高等教育局担当)の伊藤 学司氏による基調講演をはじめ、三井住友カード株式会社、株式会社コンカー、国立大学法人香川大学、学校法人工学院大学など、産業界と学術界から様々な登壇者が講演しました。
本レポートでは、経費精算のデジタル化や業務改善の事例、さらには法改正への対応など、高等教育機関が直面する課題とその解決策についてなど、当日共有された具体的な取り組みを抜粋して紹介します。
まずは前編を公開!後編は後日の公開をお待ちください。(公開次第、リンクがつながります)
イベント開催の背景と目的
冒頭では、株式会社コンカー シニアバイスプレジデント 常務執行役員 下野より、私学法改正に伴うガバナンス強化の必要性や文部科学省の高等教育グランドデザイン、そしてバックオフィスのDX実現に向けた取り組みが必須と説明しました。
「昨今の高等教育機関を取り巻く環境は、国家公務員等の旅費制度の改正や私立大学法の改正を控えており、大きな転換期を迎えることになります。これをチャンスと捉え、業務プロセスを見直すことで多くの業務削減効果を得ることができると確信しております。」
来年度施行される私学法改正においては、安定した大学経営のためガバナンス強化に合わせ、財務会計や経費精算管理の見直しも求められています。あわせて、文部科学省が2040年に向けた高等教育のグランドデザインの学習者本位の教育の実現を目指すべく、文理横断融合教育の推進、出口における保障を強化しています。そのため、学生保護の仕組みの整備と教育の充実が求められており、バックオフィスのDX実現に向けた取り組みが必須になっています。
「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方」
まずは、文部科学省 大臣官房審議官 高等教育局担当 伊藤 学司 氏による基調講演をいただきました。
18歳人口の長期的な減少傾向と大学進学率の上昇や、今後の予測についての考察が示されました。そして、大学の役割についての問題解消に向け、実際に山口県が取り組んだ教育改革の全体の事例を紹介されました。
18歳以下の人口は減少傾向だが、大学進学率は上昇している
まず、18歳人口の急激な減少が浮き彫りになりました。かつてのベビーブーム時には249万人もいた18歳人口が、現在では約100万人にまで減少しています。つまり、ピーク時の半分以下になっているのです。この傾向は今後も続くと予測されており、高等教育機関にとって深刻な問題となっています。
しかし、興味深いのは、これまで大学生の数が減少していなかった点です。18歳人口は減少しているにもかかわらず、大学進学率の上昇がそれを相殺してきたのです。ところが、この「バランス」も今後は崩れる可能性が高いと指摘されています。
さらに注目すべきは、この問題が決して新しいものではないという点です。文部科学省の高官は、約20年前から「大学全入時代」の到来と大学規模縮小の必要性が予測されていたと明かしました。しかし、これまでは進学率の上昇により、その影響が顕在化していなかったのです。
今、高等教育機関は大きな転換点に立っています。少子化の加速、進学率の頭打ち、そして18歳人口の更なる減少。これらの要因が重なり、近い将来、大学の運営に大きな影響を与えることは避けられません。
伊藤 学司 氏はこの状況を客観的に分析し、長期的な視点で対策を講じる必要性を強調しています。
今後、各大学がどのような戦略を立て、この難局を乗り越えていくのか。そして、政府がどのような支援策を打ち出すのか。日本の未来を左右する重要な課題として、今後の動向に注目が集まっています。
大学に求められている経営の見直し
日本の高等教育が直面する危機的状況を、伊藤氏は以下のように見立てました。
18歳人口の推移に関して、第一次ベビーブーム時にピークを迎え、その後第二次ベビーブームで再び増加したものの、それ以降は少子化の影響で減少傾向が続いていることが示されました。具体的には、ピーク時には249万人だった18歳人口が、現在では100万人強まで減少しており、今後もこの傾向が続くと予測されています。
一方で、大学進学率は上昇を続けてきたため、これまでは18歳人口の減少にもかかわらず、大学生の数はあまり減少していなかったことが指摘されました。しかし、現在では大学・短大への進学率が6割を超え、専門学校を含めると8割に達しているため、今後は進学率の大幅な上昇は見込めないとの見解が示されました。
さらに、最近の統計では日本の出生率が1.20、東京都では0.99という低い数値が報告されており、少子化がさらに加速していることが述べられました。このため、今後は18歳人口の減少がより顕著になり、今後10年から20年の間に、大学生の数も1割から3割程度減少する可能性があるとの予測が示されました。
これらの統計と予測から、大学にとってはますます厳しい時代が到来する可能性が高いことが示唆されました。
この状況は、単に教育界の問題にとどまらず、日本社会全体の将来に関わる重大な課題と言えるでしょう。政府や教育機関は、この構造的な変化にどう対応していくのか、早急な対策が求められています。
日本の高等教育の変化と地域格差の拡大
文部科学省の高官が語った最新の分析によると、これまで見えにくかった危機が、今まさに顕在化しつつあるのです。
高等教育の形態も大きく変化しています。かつてのエリート型からユニバーサルアクセス型へと移行する中で、大学の多様化が進んでいます。これに伴い、大学経営にも専門性が求められるようになりました。アカデミアの自主性を保ちつつ、経営のプロフェッショナリズムを両立させる難しい舵取りが必要とされています。
さらに、地域間格差も深刻な問題です。都市部と地方の間で進学率や大学の収容率に大きな差が生じており、18歳時点の地方から都市部への人口流出が加速しています。特に地方の私立大学では定員割れが常態化しつつあり、今後の18歳人口減少でさらなる経営悪化が予想されます。
このような厳しい状況下は、単なる規模の縮小ではなく、教育の質の向上や社会のニーズに合った人材育成など、高等教育の本質的な役割を見直す好機とも言えるでしょう。
高等教育へのアクセス拡大や男女間格差の縮小
日本の高等教育が大きな転換期を迎えている中、新たな希望の兆しを伊藤氏は語っています。
まず、朗報として挙げられるのが、低所得層の大学進学率の急激な上昇です。授業料免除や給付型奨学金といった就学支援制度の充実により、住民税非課税世帯の進学率が、わずか5年で40%から69%へと急上昇しました。これは、経済的障壁を越えて、より多くの若者に高等教育の機会が開かれつつあることを示しています。
また、長年課題とされてきた男女間の進学率格差も着実に縮小しています。特に女子の大学志願率は、15年前の40%台から現在57%まで上昇し、60%台で頭打ちの男子に迫る勢いです。この傾向が続けば、近い将来、大学進学における男女平等が実現する可能性も見えてきました。
こうした状況を踏まえ、文部科学省は昨年9月、中央教育審議会に高等教育のあり方についての諮問を行いました。
ここで注目すべきは、単なる数の問題だけでなく、人口減少社会における高等教育の役割を根本から見直そうとしている点です。
具体的には、人口減少に伴うGDPや国力の低下を防ぐため、一人一人の能力を高める「質の向上」に焦点を当てています。つまり、人口は減っても、個人の能力を高めることで国全体の力を維持し、さらには発展させることを目指すべきといいます。
日本の将来の鍵を握る高等教育
高等教育の重要性がこれまで以上に高まっている中で浮かび上がってきたのが、「連携」と「再編」というキーワードです。
一つの大学だけでは教育の質の維持が難しくなる中、大学間の連携によってそれを補完し合うことが重要視されています。さらに踏み込んで、大学の再編統合も視野に入れるべきだという議論も進められています。
また、国立・公立・私立という従来の枠組みの見直しも検討されています。例えば、かつては低所得者層の受け皿だった国立大学の役割が変化し、逆に私立大学が低所得者層の教育機会を支える傾向が出てきています。特に地方では、私立大学の経営難により、高等教育へのアクセスそのものが危ぶまれる状況も生まれています。
さらに、高等教育を支える財源の問題も浮上しています。公的資金だけでなく、アメリカの大学をモデルとした民間資金の活用や効果的な運用など、新たな財源確保の方策が模索されています。
日本の「知の総和」の維持・向上
日本の将来の深刻な課題に対処していくため、これからの高等教育の改革の柱について語られています。
高等教育の新たな目標として掲げられた「知の総和」という概念です。
これは単に学生数を増やすだけでなく、一人一人の能力を高めることで、日本全体の知的資本を拡大しようという野心的な構想です。
少子化が進む中、この「知の総和」をいかに維持し、向上させるかが、日本の未来を左右する鍵となるそうです。
具体的な政策立案においては、「質」「規模」「アクセス」という3つの観点が重視されています。これは、教育の質を高めつつ、適切な規模を維持し、誰もが高等教育を受けられる環境を整えるという、バランスの取れたアプローチを目指すものです。
特に注視されるのは、文理融合教育の推進と成長分野への対応です。やはり今までの文系と理系をわけて、それぞれの専門性を高めるというところでとどまるのではなく、新しい社会の変化に対応し、成長を切り開いていけるような文理横断、文理融合教育というものを高等教育は導入していかなければいけないのではないかと議論されています。
また、デジタルやグリーンテクノロジーなど、デジタル人材教育に関して明らかに日本は足りていないため、これに対して高等教育が今後の日本経済を牽引する分野での人材育成が急務とされています。
これに対応するため、政府は約3000億円の基金を設立し、大学の機能強化を支援する新たな事業を開始しました。
さらに、女子学生の理工系進学率の低さという長年の課題にも光が当てられています。ジェンダーバイアスの解消と同時に、理工系の受け入れ体制の拡充が必要とされており、この分野での改革が進めば、日本の科学技術力に大きな影響を与える可能性があります。
さらに、18歳人口の減少に対応するため、留学生の受け入れ拡大や社会人向けのリカレント教育の充実も検討されています。
これは、大学の役割が従来の「18歳の教育」から、より幅広い年齢層や国際的な人材の育成へと拡大していく可能性を示唆しています。
高等教育の「質」「規模」「アクセス」の具体的な施策
「質」の面では、多様な価値観の集まるキャンパスをいかに実現をしていくかということが重要です。具体的には、教育内容の改善や成果の可視化、そして情報公開の徹底が挙げられています。
特に興味深いのは、留学生や社会人を積極的に受け入れることで、多様な価値観が交わるキャンパスを目指す方針です。
また、大学院教育の充実も重要な課題として挙げられています。一部の理工系分野では大学院段階で学ぶことがメジャーになっていますが、全体で見ると比率はまだまだ低い状況が続いています。こうした取り組みは、日本の大学の国際競争力を高める上で重要な一手となりそうです。
「規模」に関しては、18歳人口の減少という厳しい現実に直面しています。しかし、留学生や社会人への門戸を広げることで、新たな学生層の開拓を目指しています。留学生、社会人が魅力的だと思えるような大学へと変わっていき、集まってもらわねばなりません。
「アクセス」の問題は特に重要です。地方大学の維持が困難になっているなかで、都心への進学も経済的な理由で断念する学生の支援など、教育の機会均等をいかに確保するかが大きな課題となっています。
しかし、これらの改革は国の政策だけでは実現できないでしょう。各大学が自主的に改革を進めることの重要性も強調されています。
学部の再編、カリキュラムの刷新、積極的な情報公開など、各大学の主体的な取り組みが求められています。
この一連の改革は、単なる教育制度の変更にとどまりません。日本の国際競争力、地域の持続可能性、そして社会の公平性にまで影響を及ぼす重大な取り組みと言えるでしょう。
大学における法人カード利用トレンドと三井住友カードの取り組み
続いて、三井住友カード株式会社ビジネスマーケティング統括部 部長代理 長谷潤 氏よりご講演いただきました。
法人カードの現状と大学での広がり
法人カードの利用が急速に拡大しており、その波が今、大学にも及んでいます。国内上場企業の実に58%が三井住友カードを導入しています。さらに、2023年度の利用金額はコロナ前の2.8倍に達しています。特に注目すべきは、オンラインサービス決済用のパーチェシングカードの急成長です。導入企業数は2.4倍、利用額に至っては4.9倍という驚異的な伸びを示しています。
この急成長の背景には、単なる利便性向上だけでなく、経費の不正使用といった問題への対策があります。
日本CFO協会の調査によれば、実に67%もの回答者が経費の不正を発見した経験があると答えています。架空出張や架空経費の計上など、企業の信頼を揺るがす不正の実態が浮き彫りになりました。
そしてこの問題は、一般の企業だけでなく、大学にも及んでいます。2021年、文部科学省が「公的研究費の管理・監査ガイドライン」を発表し、その中で法人カードの導入を不正防止策として推奨しました。これを受けて、多くの大学が法人カード導入の検討を始めているのです。すでに100以上の大学が法人カードを導入し、国立大学に至っては約40%が採用しているとのことです。
この動きは、単なる経費管理の効率化にとどまりません。研究費の適切な使用は、学術研究の信頼性に直結する問題です。法人カードの導入は、日本の学術研究の健全性を守るための重要な一歩と言えるでしょう。
法人カードの利用金額の増加、主な用途とは
2023年度の法人カード利用金額は2年前の1.7倍です。大学では、主に二種類の法人カードが使用されています。一つは教職員個人に発行される教職員用カード、もう一つは学部や研究科などの組織単位で使用される部局用カードです。
教職員用のカードは、主に研究活動に関連する支出に利用されており、海外の専門書籍や論文の購入、学会出張などの費用支払いに使用されています。
一方、部局用のカードは、学部や研究科といった大学の各組織が共通で使用するもので、主に備品購入や通信費の支払いに利用されています。最近では、これらの通常の用途に加えて、生成AI、特にChatGPTの利用料金の支払いが急増しているそうです。
ChatGPTの利用は前年比で約10倍という驚異的な伸びを示しており、これは大学が最先端技術の活用に積極的であることを表しています。
しかし、この急速な普及の裏には、単なる利便性向上以上の理由があるようです。
三井住友カードが選ばれる理由
三井住友カードが選ばれる理由として挙げられたのが、ガバナンスの強化です。「マンスリークリア」という独自の利用枠管理方式や、従業員の不正利用時にも対応可能な保険サービスなど、経費の不正使用を防ぐ仕組みが整っています。
さらに注目すべきは、経費管理のデジタル化です。ウェブ完結型のサービスや経費精算システムとの連携により、煩雑だった経費管理業務が大幅に効率化されます。
この動きは、単なる支払い方法の変更にとどまりません。
経費の透明化は研究費の適切な使用につながり、業務の効率化は研究者が本来の仕事に集中できる環境を作り出します。
また、バーチャルカード番号の即時発番といった利便性も挙げられます。
経費管理業務を効率化するには、三井住友カードの以下のようなシステムや商品があります。まず「マンスリークリア」と呼ばれる限度枠管理システムは、不必要に高額な限度額設定を避けつつ、柔軟な利用が可能になります。
次に、「SMCC Biz Partner」というウェブ管理システムです。約9割の大学が利用しているこのシステムは、研究者や事務職員の負担軽減につながる可能性を秘めています。
三つ目は「クライムマネジメント保険」。経費の不正利用という、大学にとって最悪のシナリオに備える保険です。これにより、大学は安心してカードを教職員に配布できるようになります。
そして最後に、最新商品「パーチェスプラス」は、プラスチックカードを発行せず、ウェブ上で即時に利用可能な使い切りのカード番号を発行できます。
さらに、予算年度内のみの使用設定や、稟議書番号との紐付けなど、大学の予算管理システムとの親和性が高い機能が搭載されています。
経費処理を効率化や研究費の適切な使用を促進可能性
さまざまな経費にカード決済を利用することで、面倒な事務作業の効率化にとどまらず、経費の最適化につながります。
三井住友カードの特別なサービスを紹介いたします。まず「階層設定」機能です。これにより、大学は学部や研究室ごとに細かくカードを発行できるようになります。ほかにも、プロジェクト名や利用目的まで記載できるため、複雑な大学の予算管理を平易にするでしょう。
次に、利用明細の確認サービスです。使用者は自身の利用状況を「Vpass」アプリで簡単に確認できる一方、管理者は全使用者の明細を一括で確認できます。これは、不適切な利用を未然に防ぐ強力な抑止力となります。
最も革新的なのは経費精算システムとのデータ連携です。17社ものシステムと連携可能なこのサービスは、まさに「紙の書類」時代に終止符を打つものです。クレジットカードの利用データはもちろん、交通系ICカードのデータ、さらにはレシートまでもデジタル化し、自動で経費精算システムに取り込めるのです。
それまでは一つ一つ、従業員がどこからどこまでの駅に行ったということをメモをして手動入力をしていた作業が削減され、自動でデータ連携がされることで作業時間の短縮につながります。また、承認者にとっても誤った申請が減ることで、差し戻しなどの手間削減につながります。
株式会社コンカーと三井住友カードの連携
注目すべきは、経費精算システム大手の株式会社コンカーとの戦略的提携です。
例えば、新幹線予約サービス「エクスプレス予約(東海道・山陽・九州新幹線ネット予約サービス)」では、利用駅の発着地情報が自動的に経費精算システムに連携されます。これにより、研究者や事務職員の手入力の手間が大幅に削減されるだけでなく、不適切な経路での予約も防ぐことができます。まさに、効率化と不正防止を同時に実現する画期的なサービスと言えるでしょう。
さらに次期開発中の「stera transit」では、鉄道やバスでクレジットカードをタッチするだけで乗降できるサービス。すでに2020年の7月より国内でサービスの提供を開始しており、2024年3月末時点で112社にて採用されております。このサービスによって、出張や現地調査時の交通費精算が効率化できます。
三井住友カードの「マンスリークリア」や「法人カード管理者ウェブ」、「パーチェイスプラス」といった独自サービスにより、大学の経費管理における不正防止と業務効率化を強力にサポートします。
サービスの豊富性に加えて、導入実績豊富な三井住友カードをぜひご検討ください。
前編はここまで!後編を明日公開いたしますので、お楽しみに。