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【イベントレポート】研究費管理と経費精算業務のデジタル化構想 (後編)
先日前編を公開した、【大学DXフォーラム】 研究費管理と経費精算業務のデジタル構想」(主催:学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学、株式会社先端教育事業)イベントレポートの後編を公開!事例のご紹介もございますので、ぜひご一読ください。
法改正による大学の経費精算業務課題
続いて、株式会社コンカー 公共営業本部 部長 福田貴容より、学内経費精算業務の効率化とガバナンスの両立について説明しました。
2023年5月に公布された私立学校法の改正に加えて、2025年4月に施行予定の国家公務員旅費制度改正が控えています。
不正防止とガバナンス強化が主眼となっているこの改正により、経費管理の透明性をこれまで以上に高めることが求められています。
現状、多くの大学では紙ベースの非効率な経費精算プロセスが続いています。紙の印刷、領収書ののり付け、手書きの入力、紙の回覧と押印、人の目によるチェックなど、時代遅れの手法が依然として主流です。特に、競争的研究費の実績報告における紙の領収書原本保存の慣習が、このアナログな体制を存続させる一因となっているといいます。
これらの課題は、単に非効率というだけでなく、膨大な時間と労力の浪費はもちろんのこと、ミスや不正のリスクも高まっています。さらに、実費精算への移行に伴う書類の増加に、現行のシステムでは対応が困難になることが予想されます。
また、従来の方法はわずか1%未満の悪意ある申請者を想定して厳格な運用を行っていましたが、その結果、99%以上の善良な教職員の生産性を著しく低下させていたといいます。大量の手入力作業や複数人による目視チェックが日常的に行われ、本来の研究や教育活動に支障をきたしていました。さらに皮肉なことに、この方法は悪意のある巧妙な不正に対しては効果が限定的でした。
ガバナンスの強化と経費精算の効率化の両立が求められている
こうした状況を打開するために、大学に求められているのは経費管理のデジタル化です。
その核心は、キャッシュレス化と自動チェックシステムの導入です。法人カードの利用により、実際の支出データのみが自動的にシステムに連携されるため、改ざんのリスクが大幅に低減されます。さらにシステムが学校規定や財源ごとのルールに基づいて自動チェックを行い、人による単純なチェック作業を不要にします。
このアプローチの最大の利点は、大多数の善良な教職員の生産性を向上させながら、同時に不正も効果的に防止できる点です。システム上に蓄積されたデータを分析することで、これまで見逃されていた不正パターンの検出も可能になります。また、デジタルによる厳格なチェックの存在を周知することで、不正を未然に防ぐ抑止力としても機能します。
紙ベースからデジタルへの移行で解決へ
これまでの紙ベースの管理システムが抱える問題点が明らかになり、その解決策としてデジタル技術の活用が注目を集めています。
教育機関が抱える経費精算業務の課題は大きく4つに分類できます。
まず、現金利用のリスクが挙げられます。現金立替や個人のクレジットカード使用が、カラ出張や水増し請求の温床となっているのです。
次に、入力作業の負荷があります。領収書の内容を手作業で転記する際、ミスや改ざんのリスクが高まります。さらに、出張申請と事後精算で同じ内容を何度も入力する非効率さも問題です。
紙管理の非効率性も大きな課題です。証憑の紙保管や伝票の回覧は時間がかかり、紛失のリスクもあります。また、確認作業の負担も深刻です。学校規定や財源ごとのルールとの照合に多くの時間がかかり、チェックの属人化によるミスや不正の見逃しも懸念されています。
これらの課題に対し、デジタル化による各プロセスの自動連携が提案されています。
その核心は、キャッシュレス化と自動チェックシステムの導入です。キャッシュレス化により、支出データが自動的にシステムに取り込まれ、改ざんのリスクが大幅に低減されます。また、旅行代理店のシステムと連携することで、カラ出張の防止も可能になります。
自動チェックシステムは、学校の規定や財源ごとのルールに基づいて支出をチェックし、違反があれば即座に警告を出します。これにより、人による確認作業の負担が大きく軽減されるのです。さらに、電子ワークフローの導入により、申請から精算までの一連のプロセスがシームレスになります。紙の領収書も電子化され、保管や検索が容易になります。
このデジタル化の効果は絶大です。試算によると、1件の申請にかかる時間が56分から22分に短縮されるそうです。つまり、60%以上の時間削減が可能になるのです。
さらに、不正の抑止力としても大きな効果が期待されています。システムによる厳格なチェックの存在を周知することで、不正を未然に防ぐことができるのです。
株式会社コンカーの教育機関における経費精算業務改善支援
続いて、株式会社コンカーの教育機関向けのコンサルタントである井田より、業務効率化に向けて外部サービスの活用を検討するにあたって必要な視点を紹介しました。
経費精算システムを提供している株式会社コンカーは、経費精算業務を「最も付加価値のない仕事」と位置づけ、その業務自体をなくすことを目指しています。
具体的には、キャッシュレス決済との連携や、紙の書類をなくすこと、承認プロセスの簡素化などを通じて、業務効率化を図っているといいます。
教育機関の現状を分析すると、三つの主要な課題が挙げられます。一つ目は労働人口と学生数の減少に伴う財政面の問題、二つ目はデジタル化の遅れと人材不足、三つ目は慣習に根ざした業務プロセスの変更の難しさです。これらの課題に対し、同社はガバナンスと生産性のバランスを見直し、デジタルを基盤とした業務設計を提案しています。
旅費精算に焦点を当てると、現金の立て替え、手作業での入力、紙の書類管理、大量の申請書類のチェックなどが主な問題点として挙げられました。これらに対する解決策として、以下の三つのアプローチが紹介されました。
キャッシュレス・入力レス
出張手配のポータルや法人カードを活用することで、教員の方々がご自身の財布から立て替えすることが不要となり、教員の方も立て替えの負荷がなくなります。加えて、キャッシュレスの実績データは自動で連携するため、日付や金額等の入力も不要になっていきます。具体的には、各キャッシュレスサービスをご利用いただくと、支払いの内容が自動で連携されていきます。
教員による立て替えの負荷をなくすといったあらゆるサービスの連携が可能で、日付、金額、支払先等の改ざんできない実績データが連携されてくるため、ガバナンスと生産性の両立が可能になっていきます。
ペーパーレス
自社システムはデジタルのワークフローを有しておりますが、領収書などの電子化も簡易的に実施が可能となっております。例えば、スマートフォンで撮影したものや複合機で読み取った証憑は、AI OCRが自動で読み取り明細を自動作成します。この証憑をデジタルワークフローに添付が可能なため、紙での回覧といった作業が不要になっていきます。
承認レス
単純に承認をなくすというよりも、承認の負荷やチェックのコストを減らすことを意図しております。例えば、自社システムは申請時に申請内容が旅費規定に準拠しているかどうかといったものを自動でチェックすることが可能です。システムがすでにチェック済みの帳票が決裁者に回覧されるため、決裁者としては、すべての規定をチェックするといった作業が必要なくなります。
また、精算後に関しては分析機能で統計データを取得することが可能です。データの可視化をすることで、規定違反の数及び処理されていない滞留されている申請承認の可視化、二重支払いが疑われるデータの可視化といった分析も可能です。このような形で事前と事後のチェックを組み合わせることで、人力によるチェックの工数を減らしていくといった視点が肝要だといいます。
富士ソフトの大学向け業務改善支援
富士ソフト社は現在、香川大学のデジタル変革(DX)プロジェクトに参加し、コンカーと協力して現状業務変革プロセスの検証を行っています。
ほかにも、教育分野、自治体や中央省庁、独立行政法人といった様々な分野におきまして、各種ソリューションを活用し、単なるシステム開発や導入だけに終わらないサポートを行っております。
具体的な実績として、消費者庁の14件のシステムを6ヶ月という短期間でガバメントクラウドに移行させた事例が紹介されました。この取り組みにより、運用コストの最適化、可用性の確保、セキュリティの強化が実現したとのことです。
また、富士ソフト社はコンカーの日本での事業開始直後から協力関係にあり、12年間で140件以上の導入支援を行ってきたそうです。興味深いのは、富士ソフト社自身も2012年に1万名規模でコンカーシステムを導入しており、利用者としての経験も活かしたサポートができると強調していました。
教育機関における経費精算DXアプローチ
最後に、教育機関における教職員の備品や出張経費などの効率化やDX化を推進するにあたってのポイントについて紹介されました。
まずは株式会社ニーズウェルの引間秀太氏を筆頭に、工学院大学の二宮氏とコンカーの福田も交えて工学院大学における導入事例を紹介しました。
工学院大学における導入事例
二宮氏によると、従来の紙ベースの経費精算プロセスでは、申請者と承認者双方に多大な時間と労力がかかっていたとのことです。特に出張経費の処理において、手入力による情報記入、領収書管理、規定との照合などが大きな負担となっていたそうです。
この課題に対応するため、工学院大学ではシステム化による効率化を目指したと報告されています。具体的な施策として、ICカードや法人カードの利用履歴の自動反映、学内規定に基づいた手当や上限額の自動計算機能の実装が挙げられました。
法人カードの導入は特に重要な取り組みだったようです。これにより教職員の立替負担を軽減し、同時にカード利用データの自動連携によって申請・承認プロセスの効率化を図ったとのことです。長期出張時の教職員の経済的負担や、仮払い処理に伴う経理業務の煩雑さも解消されたと述べられました。
さらに、法人カードは二つの利用シーンを想定して導入されたそうです。一つは主に出張時の諸経費精算用で、もう一つは部署での物品購入などの経費精算用のパーチェシングカードです。これにより、個人の立替経費だけでなく、部署単位での経費処理の効率化も図られたとのことです。
この新システムは、申請者と承認者双方の負担軽減に貢献したと報告されています。申請者にとっては、データの自動連携や規定に基づいた自動計算により入力作業が大幅に削減されました。承認者側では、自動連携されたデータにより、細かな金額のチェックにかかる時間が削減され、より重要な業務に時間を割くことが可能になったとのことです。
経費精算の効率化に向けた具体的な方法
工学院大学の経費精算業務効率化の具体的方法について、SAP Concurを活用した事例が株式会社コンカーの福田が紹介しました。
今回の取り組みは主に旅費を中心とした立替経費の精算に焦点を当てています。
システムの特徴として、出張の事前申請から事後精算までの一連のプロセスをデジタル化することが可能になったと報告されています。具体的には、SAP Concur上で国内外の出張の事前申請と承認を行うことができ、必要な申請が行われていない場合は事後精算時にエラーや警告を発することができるそうです。
精算時の効率化については、法人カードやICカードなどのキャッシュレス決済データを自動連携させることで、入力作業と確認作業の負担を軽減できると説明がありました。さらに、スマートフォンアプリを活用した領収書の管理やOCR機能による入力負荷の軽減も可能とのことです。
また、学内規定やルールに合わせたシステムチェックや手当の自動入力機能により、チェックすべき点を絞り込み、効率的な確認作業が可能になったと報告されています。加えて、予算管理や経費データの可視化機能も備わっており、用途に応じた分析や集計が可能になったとのことです。
経理業務や支払い業務の効率化が重要な課題
次に、経費精算プロセスの効率化、特に経理部門の業務改善に焦点を当てた内容が紹介されました。
教育機関における現状の経費精算業務について、講演者は紙ベースでの申請・精算処理が主流であると指摘しました。これにより、学内予算や研究費など、異なるシステムへの転記作業や、教職員への支払い処理など、一つの精算に対して複数のシステムへの入力作業が発生していると説明されました。
法人カードのみを導入した場合、支払い方法によって転記内容が変わるため、必ずしも経理業務の負担軽減にはつながらない可能性があるとの懸念も示されました。
そこで、SAP Concurで集められた精算データを活用し、仕分けや振り込みデータを自動的に作成する連携アプリケーションの導入を提案しました。これにより、精算から経理業務までをノンストップで処理することが可能になるとのことです。
このアプローチは、キャッシュレス決済の多様化や、教育機関特有の予算管理の複雑さに対応しつつ、経理業務全体の効率化を図れるといいます。
ニーズウェル社の「N-Bridge」とコンカーのサービス連携
ニーズウェル社が提供するN-Bridgeは、SAP Concurと顧客の基幹システムを連携させるアプリケーションです。
N-Bridgeの主な機能は、SAP Concurで確定した精算データを基に、会計システムへの仕分けデータや予算執行データの連携、さらには銀行の支払いシステムへの振込データの作成が可能だとのことです。特に、法人カードやICカードなどのキャッシュレス決済データの活用が、不正防止と効率化の観点から重要視されていると説明がありました。
N-Bridgeの具体的な動作として、SAP Concur上で申請承認されたデータを自動的に取得し、立替経費かキャッシュレス決済かを識別した上で、顧客の会計システムや基幹システムに適切なフォーマットで連携することが可能だと述べられました。これにより、手入力が不要となり、経理業務の負担軽減につながるとのことです。
教育機関特有の課題として、学内予算と研究費の管理が別システムで行われていることが多い点が挙げられます。N-Bridgeはこの課題に対しても、予算の種類に応じてデータを出し分けることが可能だと説明されました。
ニーズウェル社ではSAP Concurの機能を最大化し、N-Bridgeと組み合わせることで、精算業務から支払い業務までの一貫した効率化を実現する提案を行っているとのことでした。
「SAP Concur Fusion Exchange 2024」2日目を終えて
当日はさまざまな事例とそれに対応するソリューションが紹介され、非常に有意義で濃密な時間となりました。
特に急速な少子化や法改正を背景とした大学の経費管理改革の必要性が強調されました。
人口減少による大学の経営難が叫ばれる中、大学の経営効率化とガバナンス強化の重要性が指摘されています。また、三井住友カードによる法人カードの活用による経費管理の効率化と不正防止の取り組みや、香川大学のノーコード開発ツールを活用した業務システムの内製化事例が報告されました。
さらに、富士ソフト社からは、公共機関や教育機関向けのDX支援サービスの展開について紹介されています。
引き続きコンカーは、大学経費精算業務のDX化に向けて現場に寄り添ったソリューションとサポートを提供していきます。併せて、1日目に開催された自治体向けのイベント内容についても別途レポートしています。あわせてご覧ください。