働きかた改革
働き方改革は経営戦略――“働きがいのある会社1位”の会社が語る働きがいのある会社の作り方【イベントリポート(後編)】
2018年5月16日に行われたミートアップイベント第2回『働きがいのある会社の作り方』のイベントリポート後編です(前編はこちら)。Great Place to Workが毎年発表している「働きがいのある会社」ランキング(2018年度)の各部門1位に選出されたアクロクエストテクノロジー株式会社の鈴木達夫氏、シスコシステムズ合同会社の宮川愛氏、そして株式会社コンカーの金澤千亜紀氏のパネルディスカッションは、まだまだ続きます。
人を育てるフィードバック
藤本:良いフィードバックは人を成長させますが、単に人を傷つけて終わりということにもなりかねません。どういう点に気をつけてフィードバックを行っていますか?
金澤:いくつかあるのですが、一番大事なのは言い方ですね。客観的に伝えるようにしています。例えば「私はこう思った」という個人の意見ではなく、「あんな言い方をすると、周囲の人にこんなふうに受け止められてしまうよ」といった周囲の意見として伝えるような工夫をしています。
宮川:シスコでは以前は年度の始めに目標設定をし、年1年評価とフィードバックをしていましたが、真の成長を望むなら、本来は常にその場で課題解決に取り組むべきです。そこで、1年単位で過去を向いたプロセスを廃止し、常に未来の行動変容を促し、社員の成長をサポートする週1回の『1 on 1(1対1の)ミーティング』を強化してきました。
それに加えて、会話をサポートするためのツールを用意しています。そのツールでは、今まで仕事と切り離して考えがちであった、個々の感情という面を重視しています。その週の優先度の高い業務をリストアップし、上司と部下が互いにコメントを書き込めるだけでなく、『LOVE(好き)だった業務』と『LOATHE(とても嫌)だった業務』といった共通ワードを用意して、その社員一人ひとりがどのような業務/状況でモチベーションが高まり、どのような業務/状況でモチベーションが下がるのか、各人の考えを把握するように努めています。
藤本:新しく導入した取り組みがうまくいかなかったときは、どう対処していますか。
鈴木:実際に運用してみるとうまく機能しないこともあるので、『3カ月ルール』を適用しています。どんなことでも、3カ月経ったら必ず見直しを行うというルールです。やってみようと思ったらすぐに実行するけれど、やっぱり必要ないとなったらやめる。そうやって、カタチだけの制度で終わらせないようにしています。
宮川:社長からのトップダウンと、草の根的なボトムアップの両方、必ず双方向であることを重視しています。その一例がダイバーシティの推進です。ダイバーシティの推進は社長が旗振り役になり、役員がスポンサー、そして社員がアンバサダーという役割を持って活動しています。
ダイバーシティ推進の活動はボランティアベースですが、社内での横のつながりを意識したり、取り組みに自ら参画したりすることで、会社や企業文化をつくるという意識を育てることにつながっていると思います。
Q&Aセッション
Q:社員から意見が出て、それをどんどん採用することは良いことだが、改善のための取り組みも多くなりすぎると個々の社員に負荷がかかる。新しい取り組みを楽しめる社員もいれば、楽しめない社員もいる中で、どのように配慮すればいいのか?
鈴木:社員は一人ひとり違うものだと考えています。新しい取り組みをポジティブに受け入れられない人には、どうしてなのかと理由を聞きますし、この社員には適用しないといった対応もします。
例えば先に話したように、うちは社員全員で話し合って給料を決めていますが、その話し合いの場に参加しないという意思も認めています。その場合、全面委任になりますが、いずれにしても、何か新しいことを会社に導入することで、一人でもネガティブな感情を持つ人が出たら意味がないので、そこには柔軟性が必要ですね。
宮川:シスコも同じです。例えばダイバーシティは尊重しているけれど、社内の積極的な活動に参加したくないという人もいる。個々のライフステージや生活環境、その時のモチベーションも関係してくるので、会社としては強制していません。
金澤:負荷は、参加する人と実施する人の両方にかかりますが、特に実施する人の負荷は、社員数が増えていくことによってどんどん大きくなっていくと思います。そこはコンカーの企業文化として根付いているタスクフォースの力を借りて取り組むことが多いです。
例えばオフィスを移転したことで、家族にオフィスを見せたいからファミリーデーを開催したいと言った社員がいました。その社員が中心となって声を掛けると、やりたいと手を挙げてくれた社員がたくさんいました。このようにして結成されるタスクフォースが、さまざまな活動をしています。
Q:発案、要望といった社員の声を出しやすくするための企業文化を、どのように醸成しているのか?
宮川:シスコの日本法人では、2年前から独自の満足調査を実施して、意見を吸い上げています。その結果をもとに経営陣が話し合いを重ね、新しい取り組みを導入しています。
その一例として『シャドーイング・プログラム』を導入しました。日本語で言うなら『鞄持ち』でしょうか。要は自分とはまったく関係ない部署の人の仕事現場に同行したりするというプログラムで、社員からキャリア形成において閉塞感を抱いているという意見があったことに応えたものです。未経験の仕事を疑似体験することで、キャリアの選択肢を広げることにつながっていると考えています。
ただ働きがいのある会社づくりには終わりがなく、課題は常にあるので、継続的に取り組む姿勢を、経営陣がきちんと見せていくことが大事だと思います。
金澤:まずは半年に1回、『コンストラクティブ・フィードバック』というのを実施しています。これは前向きな気持ちで、建設的な意見交換を行おうという取り組みで、本当にさまざまな意見が出ます。他にもパルスチェックと呼んでいる10問程度の簡単なアンケート調査を定期的に実施していて、個人レベルでの小さなSOSを見逃さないようにしています。
ただ、意見を吸い上げても、会社としてできることとできないことがあります。できなかったことに関しては、なぜ現状では実施できないのかといった理由を必ず伝えるようにしています。
Q:働き方改革の推進は、経営陣のコミットが大前提になる。働き方改革が売り上げを下げるといった感覚で捉えられたとき、どのようにコミュニケーションを取れば、経営陣に理解してもらえるのか?
宮川:シスコでは働き方改革は人事戦略ではなく、経営戦略だと考えています。ですからそれが今のステージでどうして必要なのかを明確にして、実際に取り組むことで、さらに売り上げを上げていく。それはカルチャーも同じことで、カルチャーってあったらいいなというものではなく、あるからこそ会社が伸びるという位置づけで、常に経営者と話すようにしています。
藤本:これはat Will Workにもよくご質問をいただくのですが、会社の経営戦略上必要なければ、やる必要がない。必要であればコミットしてやるべきですとお伝えしています。それでもよくわからないという社長さんに対しては、他の会社の社長さんを紹介して、経営者同士で話してみて、理解を深めていただくようにアドバイスしていますね。
Q:ボランティアレベルでの活動に対する、フィーも含めた評価はどのようにしているのか?
金澤:本業が優先ではありますが、コンカーではタスクフォースが企業文化をつくることに貢献していると考えているので、タスクフォースでの活動も評価の対象にしています。例えば年に2回、アワードを開催していますが、その際にはタスクフォースでイニシアチブをとった人も評価するようにしています。
宮川:アンバサダーが非常にいい活動をした時に、社員同士が自由に与えあえる報酬制度を準備しています。上限額までは上司の承認がなくても、個々の社員の意志で報酬を出すことができます。もちろん上司の承認は必要ですが、それ以上の報酬を出すこともあります。
鈴木:基本的にボランティアという考え方がなく、社内でやったことはすべて仕事と考えているので、査定に反映しています。
バックオフィスヒーローたちの熱気に包まれた懇親会
パネルディスカッション終了後は、同会場にて懇親会が行われました。参加いただいた方のほとんどがバックオフィスの仕事に従事されているので、共通するお話もあるでしょう。偶然隣の席に座ったことが縁で、閉会時間ぎりぎりまで話し込む方、活発に名刺交換を行う方など、それぞれに交流を図っていらっしゃいました。
参加者からの声を少し紹介します。
「働き方改革は緊急課題であり、具体的にみなさんがどう進めていらっしゃるのかをうかがい、とても刺激を受けました。ただトップがどのように働き方改革を捉えるのか、そうしたカルチャーを定着させるという点においては、当社も含め課題が多いと思います」(メーカー/男性)
「自身の会社の規模が拡大していく中で、管理部としてどのように組織づくりができるのか。そのヒントをうかがいたいと思って参加しました。企業が成長する過程では、実際にやってみないとわからないことが多いので、お話の中に出ていた『3カ月ルール』は自分の会社でも実行できると思いました」(人材支援/男性)
今回のミートアップで最も印象に残った言葉として多くの人が挙げていた「働き方改革は人事方針ではなく経営戦略」。とはいえ、各社各人が「働きがいのある会社とはどんな会社なのか?」を思い描き伝えるのが、すべての始まりです。パネルディスカッションの具体策からはヒントが得られましたし、ミートアップに参加して感じていただいた通り、社外の同志もいます。あとは始めるだけです。働きがいのある職場を作っていきましょう。
執筆:吉川ゆこ/撮影:野田洋輔ほか/企画編集:野田洋輔