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tsumiki証券 代表取締役CEO 寒竹 明日美氏 - 積立投資も企業価値の最大化も中長期の視点で考える - The Road to CFO

Taku Kakino |

CFOや経理財務に携わる社員が社長を支える立場から、自ら社長になることで、目線の高さや必要な心構えはどのように変化するのだろうか?今回は経理財務部門から tsumiki証券株式会社 代表取締役CEO に就任した寒竹 明日美さんにお話をお伺いしました。


 

現金貯蓄をもっと有効に活用してもらいたい。個人の生活と社会をもっと豊かにしたい。

 

柿野:まず、tsumiki証券の事業内容を教えてください。

寒竹:tsumiki証券 は2018年8月に事業を開始した丸井グループの証券会社で、つみたてNISAを含めた積立投資サービスを提供しています。月々のコツコツ投資を通じて、個人の資産形成に貢献したいと思っています。

実は日本の家計資産は約1,800兆円ほどと言われていますが、半分は現金貯蓄に留まっており、この数十年でもほとんど変わっておらず、欧米と比べて状況はかなり異なっています。

柿野:ちょっと調べてみたのですが、米国では個人の金融資産に対する現金・預金の割合はわずか、13.1%。資産の増加率で見ると、日本は残念ながら、米国と比べ半分以下のパフォーマンス*でした。

寒竹:私たちは現金貯蓄以外の選択肢をお探しのお客様の期待に応えたいと思っています。ただ、金融投資に関する情報量は膨大で、正しい知識がないと損失のリスクもあります。手を出すのが怖い、馬鹿にされそう、騙されそう、損をしそうなど、様々な要因が絡み合い、金融投資に対して、心のハードルも上がってしまっていると思います。

柿野:雇用も昔ほど安定してませんしね。。。

寒竹:はい。望む望まざるもありますが、社会構造の変化スピードが早く、非正規雇用やフリーランスといった新しい雇用形態も一般化してきてますし、年金が果たしてもらえるのか?といった不安も感じている方も多いと思います。将来が不安で資産は増やしたい、でも投資は怖い、とりあえず、現金で貯めておこう。そんな消費行動が現れているのだと思います。

柿野:少し暗い話になってきましたね。。。

寒竹:そこで私たちの出番です。実は長期間の積立投資は個人の資産形成に最も効果的と言われています。普段の生活に影響しない範囲で月3000円からコツコツ投資ができ、6,000本以上の投資信託から長期間運用にふさわしい3社4本だけを厳選してお客様にお届けしています。

柿野:なるほど、リスクとメリットをうまくバランスした金融投資を通じて現金から投資の活動へシフトさせるわけですね。

寒竹:はい。コツコツ長期間に渡って投資されたお金は投資市場で流動性が生まれますので、必要とする領域に再投資が行われ、豊かな社会の創造に向けた取り組みを副次的に促進することにも繋がります。私たちはエポスカードなどの金融サービスの経験を元に店舗でもお客様に寄り添い、適切にリスクをコントロールしながら積立投資サービスを提供したいと思っています。

柿野:丸井というと駅前にある店舗で小売業のイメージが強いのですが、グループ内では金融サービスはどのような位置付けにあるのでしょうか?


(tsumiki証券 代表取締役CEO 寒竹 明日美 さん)

 

コト消費への変化対応と金融サービスの進化

 

寒竹:実は利益構成比で見ると小売が3割、金融サービスが7割となっています。人口動態の変化、モバイルやクラウドなどのIT技術の一般化、シェアリングエコノミーの台頭などを通じて、お客様の嗜好が ”モノ” から ”コト” へ変化していると思います。私たち自身もそれらにお客様ニーズに対応し続けた結果、現在のような利益構成比になったと考えています。

柿野:なるほど、”買う” と ”お金” は密接な関係があるので、相乗効果も大きそうです。ちなみに寒竹さんはどのようなキャリアで tsumiki証券の社長に就任することになったのでしょうか?

寒竹:丸井グループでは新入社員はまず、店舗へ配属されます。私も下着販売を2年ほど経験した後、経理財務部門に異動し、税務管理と資金管理に従事後、IRや経営企画などを経験し、その後、新規事業開発でこのサービスを担当し、子会社設立のタイミングで社長に就任しています。青井(丸井グループ代表取締役社長)から「社長、そろそろやってみる?」と言われ、気づいたらそうなってました(笑)。もともと数字に強い方ではないと思うのですが、振り返ると数字を扱う仕事が多いですね。

柿野:なるほど。資金調達やM&Aや経営管理に明るい人材がCFOとして社長を支えるというケースはよく聞きますが、自分自身が社長になって、会社運営に責任を持つというケースは珍しいと思います。何かきっかけがあったのでしょうか?

経理財務と経営との関係をもっと理解したい

 

寒竹:経理財務の仕事をしている時、作業的な仕事が多く、自分の中で経営との関係性が少し希薄になっていると感じ、自分なりにも経理財務と経営の関係性について頭を整理したいと思い、一橋大学財務リーダシップ・プログラムに参加させてもらいました。自分が扱う数字が事業の起点であり、結果であり、企業価値の観点から経営を考えられる経験を得たことが、今のポジションに繋がっていると思います。

柿野:企業価値というお話がありましたが、どのような指標を中心にモニタリングして、実際の業務に繋げているのでしょうか?お話しできる範囲で教えてください。

寒竹:ステイクホルダーやビジネスシーンにより、重視する指標はもちろん異なりますが、一番重要視しているのはROEですね。それが投資市場との対話になれば、EPS、ROICやPER、PBRなど様々ですね。経営計画は企業価値の推移を中長期でイメージしながら、想定できる外部環境を捉えつつ、内部改革のタイミングを押さえ、投資市場との対話と施策を展開していくことが重要です。

また、最近では長期にわたる企業価値の最大化と持続的な社会形成に向けて、ESG経営の観点も全事業に横断する形で対応しています。

柿野:小売業などお客様との距離感が近い業態ほどESGを重要視する企業が多いように思います。ESGを全事業に根付かせるには相当の苦労と独特なアプローチがあるように思いますが、いかがですか?

 

 

 

社会の要請に応えることで、結果的に企業価値は最大化できる

 

寒竹:私たちは「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」と丸井グループビジョン2050**で掲げています。一部の人に偏るのではなく、すべての人が「しあわせ」を感じられる豊かな社会を実現してこそ、丸井グループの存在意義があると思っています。それを実現するには強力なリーダシップと社員が自ら手をあげ、率先して改革を主導する姿勢と制度作りが不可欠です。

青井はVISION BOOK 2050の中で自ら「2050年の皆さまへ」と題し、2019年から始まる取り組みをコミットし、社員一丸となる取り組みを推し進めています。ESG経営の起点は経営のリーダシップであり、実践は全社員、このアプローチを社会や市場との対話を長期的に継続することで、結果的に企業価値も最大化すると考えています。

柿野:現在、社長の立場ですが、CFOや経理財務部門に求められる資質やキャリア形成についてはどのようにお考えですか?

 

数字を正しく理解するには良質な関係構築力が不可欠

 

寒竹:経理財務に携わる人は特に数字を読む、作る技術はとても重要です。ただ、数字の背景や数字に現れない事象を正しく理解するには、ビジネス現場に足しげく通い、ステイクホルダーと良質な関係構築がもっとも重要です。

ビジネスはうまくいくケースの方が少なく、現場も経営層も制約条件の中で判断するケースが多く、望み通りに対応できないことも少なくありません、だからこそ、数字だけで判断するのではなく、その人の立場になって考えることが大事なんだと思います。

時には一見関係しないような他社の財務情報を分析したり、同じような立場の人と積極的に情報交換することも重要です。社会や市場は様々な人や会社や団体で成り立っています。外部環境の変化に敏感でいることもとても重要な要素だと思います。


(左 : 聞き手 - 株式会社コンカー 柿野)

柿野:最後にtsumiki証券での寒竹さんのチャレンジをお聞かせください。

寒竹:現在、選りすぐりの3社4本の投資信託を通じてお客様の資産形成をご支援していますが、これらサービスを拡充しつつ、10年後に預り資産残高1兆円を目指して事業に当たっていきます。眠っている現金貯蓄を投資活動に振り向け、活力ある日本社会に向け貢献するとともに、同時に個人の皆さまのしあわせが増す取り組みを続けていきたいと思います。

柿野:金融サービスからESG経営まで様々な視点でお話がお伺いできました。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。

寒竹:こちらこそ、ありがとうございました。

 

*出典 : 資金循環の日米欧比較 (2018年8月14日 日本銀行調査統計局)

 

**共創サステナビリティーレポート - VISION BOOK 2050

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